まよらなブログ

14章4話。

先走った志水の「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

後半、爺ちゃんとオランピアの会話がありますが、
この話を書いて、オランピアは実は超オイシイ存在のではないか、
と、今更認識しました。気付くの遅すぎる。
だからと言って、出番が増えるということもないでしょうけど。



では興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


14章4話
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「ちょっと、おとーさん。相談があるんだけどさー」
 ディスケが恒星邸の一室、彼らにあてがわれた部屋の扉を開けると、中にはアヴィーに詰め寄られているマルカブがいた。マルカブは、助かった、と言う様子でディスケの方を向いて(アヴィーは「まだ話は終わってないよ!」と喚いた)、
「おう、なんだ?とりあえず、部屋を出よ・・・・・・って、なんだソレ?」
 そう聞きながら自分の頭の上を指す。ディスケは自分の頭の上を見上げるように上目遣いになり、
「ああ、サイミンフクロウの雛。」
 そして、さらっと答えた。ディスケの頭の上には、催眠術を使うフクロウの魔物・・・の雛が載っている。成鳥は極彩色の羽を持っているが、雛は白いふわふわした羽毛で覆われていた。首をすぼめ、小さな羽を小さく折り畳んで、ちょこん、とディスケの頭に乗っている姿は、鳥というより球に近かった。アヴィーが「可愛い!!」と駆け寄ってきたので、ディスケは屈んで雛が見えるようにしてやる。ディスケが屈んだことで、彼の背後にいるサビクとアル・ジル(とハマルとギェナー)が見えた。マルカブは、おい、とディスケに低い声で呼びかけた。
「お前、サビクたち連れて探索したんじゃないだろうな?」
「してないって。海都から直で深都に来たんだ。」
「待って、マルカブ。わたしのせいだから、わたしに話させて!」
 アル・ジルが、手を挙げながら声を出した。
「この子が孵ったときに、ちょうどディスケにこの子のことをお願いしててね、それで、その子、刷り込みしちゃった!」
「・・・ディスケを親だと思ってるのか。」
「うん。」
 マルカブがげんなりした顔を見せたので、慌ててサビクがアル・ジルの前に立って、
「ジルは自分かギェナーに刷り込みするようにって考えてたんだぞ!それで雛が孵る頃はずっと付きっきりで。・・・でも、その・・・ちょうどタイミングが合わなかっただけで・・・」
「俺は、アル・ジルを叱るつもりはねえよ。マリアさんに隠れて雛を孵したんじゃねえんだろうし、生き物が思い通りのタイミングで産まれるはずないからな。そうじゃなくて、」
 マルカブが言葉を続けようとすると、
「あれ?アル・ジルにサビク。どうしたの?」
 廊下をととと、と歩く音とともにカリーナの声。アル・ジルはカリーナに駆け寄っていって、「サイミンフクロウの雛、見る!?」と言いながら彼女の手を引いて戻ってきた。カリーナは不思議そうに部屋を覗いてから、ディスケの頭の上の雛に気づいて、
「可愛い!!」
 やっぱり駆け寄っていくのだった。マルカブは、雛に触りたくてうずうずしているアヴィーとカリーナ、脳天気に「可愛いだろー?俺もいよいよパパデビュー?」とのたまっているディスケを見下ろした。問題は、魔物の卵を孵すことにしたアル・ジルでも、それを許可したフィニック夫妻でもない。いつも脳天気なうちのギルドだ。そう、改めてマルカブは頭痛とともに再確認した。
「・・・ディスケ、その雛、どうするつもりだ?」
「飼っていい?」
 そう来ると思ったけどさ、とマルカブは思いながらも頭を抱えた。
「・・・ガキかお前は。」
「そうかもなー。じゃあ、俺はカリーナとアヴィーのおにーさんってことで。」
「え!?お兄さんじゃなかったの!?ずっと、ディスケは二人のお兄さんだと思ってたよ!」
 アル・ジルが本気で驚いている。ディスケは笑いながら、俺が一番上だぞーとアヴィーとカリーナに明言する。カリーナには「じゃあ、お兄さんらしくしてよね。」と釘は刺されたが、この件には二人とも抗議する気はないようだった。ディスケはカリーナを適当にあしらいながら、
「飼っていいだろ、おとーさん。アル・ジルが育て方知ってるから、相談しながらやるよ。それに、成長したら戦力になると思うんだよなー。うちのギルド、眠りとか痺れの技を持ってる奴、いないじゃん。」
 それは一理あったし、【サブクラス】の技を使えばアル・ジルの持っているノウハウをディスケが身につけることも容易い。ギェナーのように主に忠実に従うなら、助けられることもあるだろう。
 マルカブの微かな気持ちの揺らぎに、ディスケは目敏く気付く。
「それに、ほら、お子ちゃまたちのジョーソーキョーイクにもいいんじゃないかと。」
「今更、情操教育が必要でもないだろ。二人とも気はいいからな。」
 完全な親バカの答えをマルカブは口にして(その自覚が彼には全くないのだが、自覚したところで親バカは親バカだ。)、ディスケの目論見に反論したが、詰まるところただの親バカであることを露呈した。ならば、そこを突くのが手っとり早い。だから、ディスケはアヴィーとカリーナを見た。
「ほら、お前等もおとーさんにおねだりー。」
 ディスケの気の抜けた言葉が号令のようだった。アヴィーとカリーナはマルカブに詰め寄って、
「飼いたい飼いたい!飼ってもいいでしょ!?」
「ちゃんとお世話するから!」
 一斉に喚くのだ。アル・ジルも寄っていって、「わたしからもお願い!みんながお世話できない日はわたしが預かるから!」と手を合わせた。サビクは、アル・ジルの代わりにギェナーを肩に留め、ハマルの毛を撫でながらマルカブの答えを待つことにした。ディスケもまるで他人事のような様子で、部屋のソファに座り雛を膝の上に載せた。そしてサビクに向かって、
「名前、何がいいと思うよ?」
 と、飼ってもいい、という許可が出る前から聞いてくる。もっともサビクも、了承の答えしか返ってこないことは分かっていたので、
「それはアヴィーたちと決めろよ。お前らが育てるんだから。」
 と、そっけなく答えた。
 マルカブから返ってくる返事は、渋々とした了承しかありない。マルカブがアヴィーとカリーナのおねだりにとんでもなく甘い。それに気付いていないのは、当の三人ぐらいなものだ。
 そして、果たして。10分後、「分かったから、ちゃんと世話しろよ。」という返事が返ってくるのだった。


*****

「いやはや、海の底にこんな街があって、海の底の更に下には海底火山かね。『ムルジム』が、あの先に進んでいたらやっぱりこんな風景に出会えていたのだろうかね。」
 老人の声は後方から。足音なく天極殿を歩いていたオランピアは静かに立ち止まった。『アルゴー』がこの天極殿にやってきた、と報告は受けていない。そして、その一員である老人が訪ねてきた、とも聞いていない。つまり、どういう手段を使ったのかは知らないが、不法侵入だ。
「・・・何の用だ?『アルゴー』。」
「今は敢えて『ムルジム』のクー・シーと名乗っておこう。なに、オランピア。以前、わしがした問いかけに、そろそろ答えて貰いたい。」
 オランピアは、息を一度吸った・・・ように見えた。彼女が人間だったら、そうしただろう。そして、彼女は記憶を検索する。人でない彼女の記憶・・・記録と呼ぶのが正確なのだが、深王はそれを「記憶」と呼んでいるので彼女もそれに倣って「記憶」と呼んでいる・・・それを探る。忘れることのない『記憶』から、この老人の問いかけを引き出した。
 オランピアはゆっくりと、クー・シーに向き直った。老人は丸腰で両腕を脇に垂らして、長い廊下の立っていた。
「・・・あなたの仲間に、褐色の肌の娘と金髪の青年がいた。」
「ああ。忘れていないようで何より。」
「彼女が死んだのは私の罠にかかったから。」
 あの古代魚の巣に踏み込んだから。オランピアはそこまでは口にしなかった。それはすでに老人は答えとして得ている。
「冒険者を一人も深都に入れるわけにはいかなかった。だから、私はあの階層であなたたちの行く手を阻んだ。」
「・・・何故、深都の存在を隠していたんだね?」
「・・・あなたたちがフカビトに会い、ミッションを達成すれば、深王様がご説明してくださる。」
 私にはそれを伝えることは許されていない、と彼女は囁いた。謝罪のような意図をクー・シーは感じてオランピアを見たが、彼女は眉一つ動かさずに続けていた。
「もう一つの問いに答えよう、『ムルジム』のクー・シー。あなたの仲間・・・セイリアスと呼ばれていたか・・・彼は古代魚の巣で傷を負っていた。その傷を癒したのは、私だ。そして、その記憶を消したのも、私だ。」
「・・・何故、そんなことを?」
「私の姿を記憶させるわけにはいかない。」
「そっちじゃない。なぜ、セイリアスを治療した?お前の目的のためならば、死なせた方が理にかなっているだろう。」
 そう言いながら、クー・シーは苦虫でもかんでいるかのように口を歪ませるのだ。仲間の『死』、その『もしも』を口にする嫌悪感がクー・シーの中には広がる。オランピアは感慨など込めずに、ただ事実だけを伝えた。
「今のあなたは、『アルゴー』のギルドマスターが子どもらを慮るときと同じ反応をしている。」
 クー・シーはわずかに眉をあげた。そして、ふむ、と溜息をつき、
「・・・腹立たしいね、お前の存在は。人の心の機微など分からないなら、わしはただの機械のお前など相手にしないのに。なまじ、心があるように見えるから、憎しみをぶつけたくなる。」
 しかし、とクー・シーはつぶやくのだ。そこにあるのは絶望にも似た諦めだ。
「憎しみをぶつけても、お前は顔色一つ変えやしないだろう。何故なら、お前は機械だからだ。ただの機械だからだ。ぶつけた憎しみを受け止めるでも拒否するでもなく、嘆きも言い訳も謝罪もしない。そんな相手に憎しみなどぶつけられない。ただただ、虚無感ばかりが広がるからな。」
 最後は吐き捨てるように。そして、続く言葉は慟哭のように。
「わしの憎しみはどこに向かえばいいんだね。」
 オランピアは、それに対する答えは持っていない。己の中に答えがない理由を、オランピアは己が機械だからだ、とした。クー・シーの慟哭に対する答えなど、人間も持っていないのだが。
 彼女は、そもそもの質問に答えることにした。つまり、何故セイリアスを生かしたのか、という質問への返事。己は、淡々と質問に答える機械なのだから。話題が変わるきっかけを作ったのは自分自身だ、ということに気づかずに、オランピアは己の役目を果たすことにした。
「セイリアスと呼ばれていた青年を癒した理由だが、」
 クー・シーは顔を上げ、拳を握りしめた。唇を振るわせ、何かを叫ぼうとして、そして俯き、力無く肩を落とす。拳を緩めて、彼はゆっくりと顔を上げた。その時にはもう、飄々とした老人の顔に戻っていた。彼は、仮面を被ったのだ。機械に・・・もしくは機械であろうとする存在に、相対するために。
「私が古代魚の巣に入ったときには既に古代魚は去っていた。」
「去っていた?」
「古代魚は、私が操っているのではない。古代魚の習性を、私が利用しているだけだ。つまり、周回する古代魚の巣に冒険者を導き、古代魚が彼らを倒す、そのサイクルを繰り返している。」
「・・・下卑た作戦だ。」
「魔物に倒されれば、冒険者として不自然ではない。私が冒険者を倒せば、私の存在が悟られる危険性が上がる。」
 僅かな確率の問題に過ぎないが、万が一というものは存在する。『アルゴー』があの古代魚の巣から帰還したことも、ケトスを倒したことも、最初はただの「万が一」だった。
「私が、確認のために古代魚の巣に入ったとき、すでに古代魚はいなかった。数日間、古代魚は巣に戻ってこなかったが、巣が安全な場所と確認できるまで外にいたのだろうと考えている。」
「どういうことだね。」
「推測だが、あなたの仲間は古代魚が畏れるほどの戦いをしたのだろう。そして、一人は大量の出血を伴いながらも、生きていた。」
 クー・シーが、ピックか、と呟いた。戦神もかくや、と言わんばかりの戦いをしたのは、おそらくあの娘だ。そして、おそらく。それは倒れたセイリアスを護ってのことだったのだろう。
「・・・古代魚もなく、一人が虫の息で倒れている。だから、助けた。」
「・・・何故?哀れとでも思ったのか。」
「・・・・・・、」
 答えようとして、オランピアは発声機に妙な引っかかりを覚えた。メンテナンスをしたばかりのはずだが。いずれにせよ、深王様に申告しておこう、と考えながら、おそらく、もっとも正しい答えを口にした。
「・・・分からない。」
 そう、よく考えてみれば分からない。無益な殺生をする気はないが、無益に人助けをする気もない。深都に益がなければ、オランピア二とって、全てが無益だ。
「・・・わからない。あなたたちはこれを『きまぐれ』とでも言うのだろう。私は、機械故に『一時的なシステムエラー』となるのだが。」
 オランピアは、ため息を・・・今度こそ本当にため息をついた。
「・・・確かに、あの瞬間、私の電子回路が逆走するような、一瞬があった。新王様に診ていただいたが、明確な故障箇所は見つからない、と深王様は仰った。」
 オランピアは本当に、困惑している・・・ようにクー・シーには見えた。己を機械だと自覚すればするほど、彼女は自己矛盾に陥っていくのだろう。その時点で、彼女は確かに機械なのだ。曖昧さを許容できない、精密な機械なのだ。しかし、精密さを増すほどに、些細すぎて原因不明のエラーが引き起こされる。人間の体にだって、同じことが起きているのかもしれない、とクー・シーの脳裏にそんな考えが一瞬よぎった。しかし、人間は己を『人間』とする故に、「気が変わった」とか「魔が差した」とか、そんな言葉で己の行動に納得が出来る。
「・・・・・・不便なものだな。」
 長い沈黙の後、クー・シーがオランピアに向けたものは、そんな言葉だった。


(14章5話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

前半と後半の落差が激しすぎる。

ちなみに、オランピアはダニール(アシモフの「鋼鉄都市」などのロボットシリーズ)
みたいに書けたらいいな、と思ってます。
ロボットは自分をロボットとしてるけど、人間がそうは思えてない感じとか書けるといい。



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