まよらなブログ

17章1話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


本日から17章です。前回の話・・・のあとがきから、
17章がどんなシーンから始まるか、バレバレな気がしますが、
「いや、雨だよ」(鋼)的なそんな展開です。
なんで3月になるたびに、こういう話の展開が回ってくるのか。

そして、
17章は救いの無い話ばかりにしようかと思いましたが、志水的に無理でした。
無理なんです、そういうの。
それが私の限界であることは分かっているけど、
だから読んでくれる人がいるのも分かっているから、いいんだけど。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



17章1話
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 冒険者は喪服など持っていない。
 普段着から、色味の無いものをどうにか選んだ。出席している者も、事情は知っているからそれで良しとした。
 葬式は、淡々としていた。遺族もいなかったし、深都兵は同僚の死に慣れているようだった。100年、戦士として生きていれば当然かもしれなかった。
 啜り泣きは少し離れたところから一つだけだった。同じように喪服など着ていないツィーが、しゃくり上げている。エラキスが、ずっと彼女の背中を擦ってやっていた。
 先ほどから、カリーナはちらちらとツィーを心配そうに見ている。その一方で、マルカブの袖を掴む彼女の手は震えている。人の心配をしている場合か、とマルカブは思った。
 マルカブの左右には、いつもの定位置でカリーナとアヴィーがいる。カリーナはマルカブの袖を掴んでいるが、アヴィーはぐっと拳を握りしめていた。時々、鼻をすすり上げるが涙は見せてはいなかった。
 そのアヴィーの向こうには、ディスケが立っている。彼は地元民だったから喪服を持っているのだが、仲間たちと同じように白と黒の平服で参加していた。彼は真っ直ぐ前を見て、眼前の光景から目を逸らさない。
 棺は穴に納められ、土が一盛り被せられた。その瞬間、ディスケは目を伏せた。アヴィーが、あ、と声をだし、慌てて口を押さえて俯いた。ねえ、とアヴィーに小さな声で呼びかけられたので、マルカブは、おう、と囁き返した。
「・・・僕、星のスケッチをアミディスさんに見せたかったよ。」
「ああ。」
「・・・結構、うまく描けたんだよ。」
「そうだな。そう思う。」
「カリーナの夕日の絵も上手かったし。」
 カリーナが、きゅっと袖を強く掴んだのを感じた。
「・・・きっと喜んでくれると思ったんだ。」
「俺もそう思ったよ。」
「・・・・・・・・・、どうしてこうなっちゃうんだろう。」
 マルカブはアヴィーの頭を撫でてから、それでも必死に泣かないでいる少年の肩を抱いた。アヴィーは、うう、と唸りながら、
「どうして、こんな、こと、に、な・・・ちゃ、うんだ」
 と息苦しそうに呟いた。
 アヴィーとカリーナがスケッチした夕焼けと星空の絵は、棺の中に納めてもらった。その棺にはどんどん土が被せられていく。土、といっても砂に近く、さらさらと棺から穴の奥へと流れていくのだ。それはあっけなさを助長して理不尽さを煽る。
 ディスケは感情を感じさせない声で、
「・・・空が見える場所に葬りたい。」
 と呟いた。俺もそう思うよ、とはマルカブは返さずに、そうか、とだけ返した。
 聞こえる啜り泣きが嗚咽に変わった。『アルゴー』と『ファクト』の中間にいるクー・シーに、マルカブはちらりと視線を向ける。その視線に気が付いたクー・シーは、ゆっくりと首を振った。気功師として祖父として、思うところもあるのだろうから、マルカブはそれ以上は何も示さなかった。ツィーを襲う辛さは、救えなかったという自責だ。それを思うからこそ、カリーナは泣くまいとして必死にマルカブの袖を掴んで立っている。だから、マルカブはカリーナの頭を撫でなかった。甘えさせた瞬間に、彼女の堰が決壊することは分かりきっていた。
 子どもたちは【恒星邸】に帰らせた方がいいだろうか、と一瞬考える。だが、それはただ避けるだけの行為だと思い至って、提案はしなかった。見送るのは、義務だ。【恒星邸】に戻ったら、思い切り泣かせてやろう。だからもう少し頑張れ、と思いながら袖を掴ませたままにする。
 棺は完全に地中に埋まる。海底の地に埋まる。その上に、白い墓標が立てられる。周りに同じものがいくつも並んでいる。
 墓標に刻まれた名は、アミディスのものだ。9階の奥で、女王蟻の魔物に腹を貫かれて死んだ。ツィーの必死の治療も虚しく、迷宮で死んだ。
 冷たくなっていくアミディスの亡骸を、深都まで運んできたのはシェリアクだ。その感触がまだ残るのか、シェリアクは思い出したように己の腕をさすり、時折掌に視線を落とす。そうして彼が運んできたから、アミディスは迷宮で朽ち果てず、こうして葬られているのだが。
 ・・・もしかしたら、シェリアクが感じている後味の悪い感触や、ツィーが潰されそうになっている後悔や自責を、自分は仲間たちに感じさせていたかもしれない。
 それぞれがその場で抱く思いはそれぞれだったが、そんな恐怖はマルカブだけが抱く思いだ。ケトスとの戦いで、その一歩手前まで行ったことを思えば、あの墓の主が自分ではなかったと言うことができるだろうか?
 足下がぐらりと傾ぐような思いに捕らわれる。彼は一度ぐっと拳を握って、その力の感触から現実感を取り戻す。傾いでいる場合ではない。自分は傾いでいる場合ではない。
 墓標に花が添えられた。『アルゴー』にも花が差し出され、供えてあげてほしい、と伝えられる。アヴィーとカリーナは、マルカブを見上げた。渡しにいこう、とマルカブは言って、子どもたちの背中をそっと押した。
 そうして、淡々と別れの儀式は終了した。


*****

 葬儀が終わり、それぞれがそれぞれに別れを済ませて去っていく。ディスケの気が済むまで待っていた『アルゴー』が、【恒星邸】に戻ろうとしたときだ。 
 ざっと足音がして振り向くと、オランピアを従えた深王がじっと墓に視線を注いでいる。
「アミディス・クシーダ・イオタス。」
 深王は、墓標に刻まれた名を呼んだ・・・いや、名を『読んだ』。そして彼は目を閉じて、その名を反芻する。
「・・・また一人、我が朋友が逝った。この名を忘れまい。」
 深王の弔いなのだろう。彼はそう囁いてから、目を開ける。そして、『アルゴー』を見て、
「卿らも葬儀に出ていたのか。・・・我が深都兵への冥福を祈ってほしい。」
「・・・深王様、わざわざお弔いに?」
 カリーナが聞くと、深王は頷いた。
「殉死した者への、我の責務だ。殉死した者の名と顔を、我は忘れない。」
 その言葉と先ほどのアミディスの名の呼び方に、何か違和感。深王はふとディスケを見上げ、そして驚いた。
「・・・アミディス・クシーダ・イオタスに瓜二つだ。」
 今更?とディスケは露骨に眉をしかめた。アミディスは天極殿にも出入りしていた深都兵だ。顔まで隠れる兜をしていたとしても、顔を見たことがないというのか?フルフェイスの兜の下を知らないのでは、安全にも問題がある。
 オランピアが深王にそっと口添えた。
「彼は、アミディス・クシーダ・イオタスの血縁です。アスピス・トゥレイス・イオタスの海都の末裔とのこと。」
「・・・そうか。彼が逝ったのは82年前の火鳥ノ月15日、フカビトとの戦いの中でだった。・・・二人の血縁者を戦いで亡くしたことになるな。」
「・・・王様、俺の曾々祖父さんのことも知っているのか?」
 ディスケの問いかけに、深王は頷いた。
「殉じた朋友のことは覚えてきた。」
「・・・アミディスのことも、覚えておいてくれ。」
「無論。それが責務だと言っただろう。彼の名、顔、どのように使命に殉じたか、彼の死について報告を受けたことはすべて忘れない。」
 ・・・違和感。
 違和感に顔を上げたのは、ディスケとカリーナだった。ディスケは持ち前の聡さで、カリーナは捨てられない王族の意識で。あることに気づく。
「・・・報告?」
「この度の彼の働きについての報告だ。深都兵と『ファクト』から聞いている。9階の奥には恐るべき魔物が・・・」
「もしかして、深王様は、」
 カリーナがそれを遮って問いかけた。
「アミディスさんとお会いしたことがないのでは?」
 カリーナの問いかけに、深王は数度瞬きをした。不思議そうに彼女を見つめるその表情を、どこかで確かに見た、とマルカブは思った。
「卿の言うとおりだ。我が彼に会ったことはない。彼に限らず、他の者と会うことはほとんどないが。だから、殉じた兵士のその顔は、葬儀の前に確認している。」
「ディスケの、曾々おじいさまも?」
「そうだな。話をした記憶はないが。」
 深王の答えに、オランピアの瞳が揺れる。しかし、それに誰も気が付くことなく、会話は続く。
「では、その人を覚えているというのは報告書を覚えているということ・・・なのですか?」
「そうなるな。」
 答えに、カリーナの表情が歪んだことが、深王は意外だったようだ。
「・・・卿も王家に繋がる身分と見受けるが、何故そのような顔をする?兵士一人一人と会話を交わすことは不可能であろう?」
 不可能だ。300もいない深都兵なら可能だ、とカリーナは判断したが、千や万を越える兵団を抱えれば不可能だ。だが。だがそれを、今、言ってはいけない。
 言わせてしまった、とカリーナは自らを責めた。ディスケの前で『王』の薄情さを露呈させてしまった。『王』が薄情であることなど、ディスケは百も承知だろう。けれど、遠縁とはいえ血縁者の前で、「今回死んだ男のことを知らなくて当然だ」など、死地に向かわせた人間は絶対に口にしてはいけないのだ。
 カリーナが泣きそうになりながらディスケを見上げる視線の意味を、ディスケは正しく理解した。お前が申し訳なく思うことはねえよ、とぎこちない苦笑で答えてから、深王に尋ねる。
「・・・それは『覚えている』と言えることなのか?」
「・・・言っている意味が理解できないが。」
「自分の兵士のことをよく知らないのは、まあ、いいよ。国の主が墓前まで来てくれるだけでも十分なんだろう。」
 『王様』なんてそれどころじゃねえんだろうしな。と口走りそうになったが、それは止める。その言葉で一番傷つくのは、おそらくカリーナだ。彼女を傷つける気はディスケにはなかったし、その結果マルカブに小言を言われるのもごめんだった。
「俺が・・・多分カリーナもだけど、変だ、と思うのは、記録しか知らないのに死者のことを覚えている、とあんたが言い切ることなんだ。犠牲者がいたことを覚えている、なら分かる。けれど、知らない人間の何を覚えているって言うんだよ。」
「・・・先ほども言ったが、顔と名前と死因だ。」
 噛み合わない会話に苛立ちを覚えたのはディスケだけではないらしい。深王は短く返答した。オランピアが悲しげにその背中を見つめている。
「王様。アンタ、アミディスが死んでからアイツのことを『覚えよう』としたんじゃないか?アミディスのことじゃなく、アミディスの『死』を覚えようとしたんじゃないか?だから報告書の内容で満足できるんだ。」
 ディスケの問いで、違和感の正体をマルカブとクー・シーは理解した。アヴィーは追いついていけないらしく、きょろきょろとディスケと深王を見比べている。
 深王はディスケの言葉を吟味するように、目を閉じて沈黙し、そして目を開けて頷いた。
「卿の言葉は適切だと判断する。我は、死者を覚えた。」
 それは当然だ、というように。
「だが、その何が卿らを不快にさせているのかが理解できない。我も朋友たちも戦士だ。死は身近にあり、彼もそれを理解していた。ならば、我に出来ることは、そのような『死者』がいたことを覚え、その死を誇りに思うことだ。」
「・・・そうじゃねえだろッ!『生者』がいたことをまず理解しろ!!」
 ディスケが吼えた。アヴィーが身を竦めて、マルカブの上着を掴んだ。その声には、それだけの迫力があった。
「ふざけんな!記録で人の死を語るなよ!!アミディスは生きていたんだよ!こいつらが持ってくる絵を楽しみにしてたんだ!平穏を知らないって言っていたんだ!そういうことを覚えていてくれよ!そうじゃなかったら、『生かす』ためにどうするか、考えられないだろうがよ!!アミディスは死ぬために戦ったんじゃねえんだよ!」
 ・・・ダメだ。
 ディスケと深王の表情、どちらも見ていたマルカブは、腹の底から沸いてきた絶望に似たものを感じていた。ダメだ、深王はディスケの言葉を理解していない。だから、どうかそれ以上。口を開かないでほしい。
「・・・それを覚えて、どうするのだ。」
 しかし、深王は口を開いた。全く、躊躇いなく。
「我々が命を賭けて戦わなければ、この世界は滅ぶのだ。嘆きは【魔】の餌にもなる。我らの価値は、誇り高く殉じてこそなのだ。」
 ディスケは深王に掴みかかった。だが、それはオランピアに遮られ、ディスケは地面に押しつけられた。
「・・・!・・・ディスケを離して!!」
 アヴィーが思わず声を上げた。オランピアは首を振り、耐えていたアヴィーの涙腺が、それをきっかけに決壊した。離して離して、とアヴィーは本当に小さい子どものように泣きじゃくる。アミディスの死や樹海や深王への恐怖、すべてを乗せて泣きじゃくり、オランピアに向かっていこうとするアヴィーをクー・シーが素早く押さえた。
 マルカブはオランピアに歩み寄り、・・・というよりもディスケに歩み寄り、屈んで、彼の肩に手を乗せながら、
「・・・、ディスケ、帰るぞ。」
 静かに、そう言った。ディスケは一度目を見開き、奥歯を噛んでから口を開きかけ、そして目を強く閉じた。深く息を吐いた後に、細い声を吐く。
「・・・・・・・・・、子どもたちの後でいいから、」
「おう。」
「・・・グチ、こぼさせてくれよ。」
 おう、とマルカブは答えた。それを聞いたからなのか、深王の「我々も戻るぞ」という声を聞いたからなのか、オランピアはゆっくりと手を離す。その視線がマルカブのものと交差した。謝罪が込められているように感じたのは、
 ・・・俺の気のせいでもないんだろうな。
 と、マルカブは感じながら、オランピアと深王が少し離れた後に、地面に倒れたままのディスケの肩を軽く叩いた。
「起きろ、ディスケ。もう、あの分からず屋は行ったから。」
「・・・おうよ。」
 ディスケが起き上がったのを見て、クー・シーはアヴィーを離す。アヴィーはぱっと飛び出して、マルカブの背中にしがみついた。マルカブはアヴィーをしがみつかせたまま、カリーナを呼ぶ。深王の背中をじっと見送っていたカリーナはその声に振り返り、マルカブが手招きしているのを見た瞬間、ぼろっと涙をこぼすのだ。そして、彼女もマルカブに駆け寄ってしがみついた。
 泣きじゃくる子ども二人にしがみつかれているマルカブを見て、ディスケは情けなく笑いながら、
「・・・、俺は大きな子どもだな。」
 と、笑いながら俯いた。


(17章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

最初、プリ子視点で書いてたら辛くなってきたので、オトンに助けを求めました。
うちの赤パイの父性は、書き手にも発揮されるので助かります。


深王様の話が完全にオリジナルです。
好き勝手にキャラづけしてごめん深王様。
でも設定資料集見る限りでは、ネタキャラっぽいからいいよね深王様。(笑)

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