まよらなブログ

世界樹Ⅳの小話

覚悟を決めて書き出しました、志水的世界樹の迷宮4話です。
うちの世界樹3話が読める人は、いけると思います。
 * メインは途中から出てくるNPC、
 * 時間軸はED後で赤竜戦後、
というネタバレから始まりますので、読みたくない方はスルーで4649!

なお、志水の世界樹3妄想話と繋がるキャラが数名おりますので、
匂う箇所もあると思いますが、その行間に漂う何がしかをお楽しみください。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


【 わたしたちの手は、】
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 廃鉱にいる場合じゃなかった。
 分かっていたはずだ。結構な無茶をする方だし、しかも一人で背負い込む方だし、そんな状態で10年を耐えきった御方だ。同じような無茶をしないわけがない。
 ・・・ふがいなさに拳を握りしめる。
 タルシスの街の入り口に、気球艇が止まっている。小振りのオレンジと緑の明るい色彩の気球艇。その名前は『ファクト』で、それを駆るギルドは『ゼイトゥーン』。見知った気球艇の周囲に少女が数名。そのうち一人が、こちらを見て、あ、と声を出した。
「ローゲルウィンドさんだ。」
 そう来たか、と呼ばれた本人は脱力を感じる。
「ルスキニア。勝手に人の名前を変えちゃダメでしょ。」
 気球艇の点検をしていたらしい城塞騎士の少女が、梯子を降りながら注意をする。だって、と眉の上で前髪を切りそろえた治療師の少女は頬を膨らませ、
「今のあの人、どっちなんだか分かんない。」
 全くその通りだ、と呼ばれた本人は思うのだ。冒険者なんだか騎士なんだか、分からない。分からないけど、今はそれはどうでもいい。「ゼイトゥーン!」と【彼】は声を出し、手を軽く振りながら、
「赤竜退治に行ったのは君たちか!?殿下はいらっしゃらなかったか!?」
「あ、一緒に赤竜と戦いましたよ。さすが、強いですね!」
「ローゲルウィンドさんより強かった。」
「砲剣かっこいいよねー!ジャキン!って斬って、バシュン!ってドライブして、ガシャンってカートリッジが飛び出て!」
「とりがー と ちゃんばー が いぐにっしょん で どらいぶ した。」
「で、バーンっ!竜に」
 少女二人は両手を広げ、砲剣の威力(なのかどうかすら分からない擬音の羅列)を興奮気味に語る。【彼】は腕で宙を薙ぐような動作をして、その語りを打ち切った。
「それより!殿下はご無事・・・・・・」
「無事ですよ。」
 気球艇の後ろから(裏側の点検をしていたのだろう)赤毛の印術師の少女が現れた。元からキツい目つきをさらに厳しくさせて【彼】を見つめ、不機嫌さを表すように腕を組んだ。
「心配なら、最初から離れるべきじゃないんですよ。」
「・・・分かってる。」
「分かってないから言ってるんですけど。」
 赤毛の少女は「そういう中途半端なの、うちのパパみたいでキライ。」と呟いた。君のとこの親子関係はどうでもいいんだよ、と心の中で呟いたが、それを口にすると面倒なことになるので黙っておく。少女も何となく八つ当たりだな、と感じたらしく、己の赤毛を指先でくしゃりと撫でた。少女は【彼】の背中に回り込み、
「皇子様、辺境伯のところに行くって言ってました。」
 そう言って、【彼】の背をぐいっと押した。
「早く行ってあげてください。」
「そうですよ。早く会ってあげてください。」
「皇子様、ケガしたけどちゃんと治したよ。だから、元気。」
 城塞騎士の少女と治療師の少女も一緒になって、【彼】の背中をぐっと押した。少女の手に押し出されるようにして、【彼】は礼を言って駆けだした。手から背中が離れると、少女たちは、行ってらっしゃーい、と言いながらその手を振った。


*****

 息を上げて統治院まで走ってきた【彼】は、「単身で竜に戦いを挑むなど!御身に何かあったらどうするのです!殿下に何かございましたら、陛下に顔向けできません!」という内容を言葉を変えて小言を繰り返す。皇子であるバルドゥールは、頬杖をついてそれを静かに聞いていた。息咳切ってやってきてくれたのだから、小言ぐらい聞いてやるべきだ、と皇子は鷹揚に考えた。同時に、この男は息咳切ってやってくるべきなのだ、とも思っていた。ともあれ、同じ内容の繰り返しが三巡目に入ったところで、軽く手を掲げて言葉を止めた。
「貴公が我が身を案じてくれたことに感謝をする。だが、もう良かろう。さすがに長々しい小言は、子ども時代だけで十分だ。」
 苦笑混じりに告げられて、【彼】は一度怯んだようだった。だが、ですが、と【彼】は続ける。
「丁度、『ゼイトゥーン』が依頼を受けていたからよかったものを・・・。お一人では危険が過ぎます。せめて兵をお連れください。」
「兵は先日の竜の襲撃でほとんど壊滅状態だ。タルシスの兵士を我が国の都合で借りるわけにもいくまい。冒険者に助力を頼むこともできたが、信頼おける人物かどうかを判断するのは難しいところだ。余が出陣することが妥当だと判断したのだ。『ゼイトゥーン』が駆けつけてくれたのは、助かったが。」
 そして皇子は頬杖を付き直し、その掌で口を覆うようにしつつ、
「・・・お前に頼むのも癪だし。」
 と呟く。だが、その声は【彼】には届かない。届かせないつもりでいた皇子は、口から手を離し少し身を乗り出した。
「・・・そうだ、余の砲剣の手入れが行き届いていて驚いた。余が伏せている間、この街の工房が砲剣を修理し手入れをしてくれたそうだな。礼をせねばなるまい。貴公は工房の場所を知っているか?仰々しいのも迷惑であろうな、どのように訪ねれば良いと思う?」
「・・・お話を逸らすおつもりですか。」
 【彼】の非難に、皇子は背もたれに背を預けて両手を組む。組んだ自分の手を・・・自分の手にしか触れていない手を、見つめながら、
「そうだな、逸らすついでにもう一点。ローゲル、貴公は騎士を辞したはずだが?」
「・・・陛下をお護りできず、殿下を一度は裏切った身です。騎士に戻るなど・・・」
「ならばどうして、楽にせぬ。」
 と、皇子はテーブルを挟んで向かいにあるもう一脚の椅子を、掌で示した。
「座って構わぬのに。」
「騎士を辞したとはいえ、それは・・・。不敬に・・・」
「不敬といえば、以前から言おうと思っていたのだ。貴公、辺境伯に対して少々失礼な物言いが多くはないか?辺境伯は、我らの帝国の恩人だというのに。」
「へ、辺境伯には感謝してもしきれませんが・・・その、冒険者として名を偽っていたころの名残がありまして、」
「ふむ。この街の執政者に対して、あのような態度を向けてきたということか。」
 皇子は両手を組み直し、まじめに思案するような様子を見せた。【彼】は「ああ、イヤな予感」と心の中で呻いた。あれは悪戯を思いついて、無理難題をふっかけるときの顔だ。10年前と変わらない。それが微笑ましいような懐かしいような気がしつつ、これからふっかけられる無理難題を思い、【彼】はそっと拳で汗を拭った。
「ならば、僕にも、あのような態度が向けられると思うが?」
 一人称が『僕』に戻った。当然だ。騎士らしい挙動を止めるように提案しているのだから、皇子も『皇子』という態度を止める。そしてこれは、少年の悪戯なのだから。だが、【彼】は態度を変えられない。
「そ、それはさすがに・・・!」
 まあ、よく聞け、と皇子は手をかざす。
「ローゲル。貴公はもはや騎士ではなく一冒険者であり、僕は貴公の主ではない。ということは、貴公から見て、僕の立場は辺境伯と変わらないはずである。となれば、僕と辺境伯に対する態度に差があってはならないはずだが。」
「・・・殿下。」
「うむ?」
「どうか、このようなお戯れはおやめください。」
「遊びではないぞ、ローゲル。僕は真剣な話をしている。」
 皇子は不機嫌そうな顔をわざと作る。小一時間は付き合う必要があるか、と【彼】が覚悟しかけたときだ、
「バルドゥール。あんまりいじめちゃ可哀想だよ。」
 と、可愛らしい声がした。部屋の入り口に、巫女がいる。彼女はにっこり微笑んで、
「久しぶり。元気そうだね!」
「巫女殿もお元気そうで何より。」
 皇子はあからさまに表情を緩め立ち上がり、巫女に手を差し伸べた。巫女はととと、と皇子の前までやってきて、その手をとって握手をする。
「辺境伯にご用事か?」
「うん。でも、辺境伯のところには別のお客様が来てるの。お話が終わるまでちょっと待ってるんだけど・・・、ちょうどよかった!二人も会えたし!」
 明るい巫女の笑顔に皇子も笑みを返し、先ほどまで【彼】に勧めていた椅子を、巫女に勧めた。【彼】は正直、助かった、と息を吐く。巫女は椅子に座りながら、小さな手で着物の皺を伸ばしつつ、
「ね、ワールウィンド。(彼女は最初に自己紹介したときの名前で【彼】を呼び続けている。)バルドゥールはね、ちょっと甘えてるだけだし、ちょっと仕返ししたいんだよ。許してあげて?」
「仕返し?」
 皇子本人が意外そうに聞き返す。巫女は、うん、と頷き、皇子との間にあるテーブルに手を載せて、おずおずと問いかけた。
「だって、【木偶ノ文庫】で、また独りになるって思ったでしょう?」
 皇子の眉間に皺が刻まれた。それ以上の皺は【彼】の眉間に刻まれたが。巫女は両手をこすり合わせながら、
「わたしね、想像してみたの。もしウーファンが勝手にどこかにいったら、わたしはウーファンのことをしばらく怒ってると思う。帰ってきてくれたことは嬉しいしどこかに行ったことも許しても、ちょっとだけ許さないって思うと思うの。」
 そしてウーファンも申し訳なかったって思ってると思うから、と巫女は人差し指を頬に立てて少し考え、
「わたしはそこに甘えて、ちょっと困らせてみようと思うんだよ。きっと、わたしのワガママも今なら叱らないだろうからって。」
 【彼】はその言い分に、胸が締め付けられるような思いを抱く。そうだ。そう。申し訳なかった、とそう思う。だからこそ、責めも咎も甘えも、甘受するしかない。
 ・・・甘受するしか、ない。それ以外のことなど、思いもつかない。
「巫女殿はウーファン殿を本当に慕っているのだな。」
 皇子は穏やかに問いかけた。その穏やかさに一番救われたのは【彼】だった。巫女は、うん!と素直に頷いてから、
「でもね、それじゃ、もしかしたら伝わらないかもしれない。だって一番言いたいことは『困ってほしい』んじゃなくて・・・・・・」
 と、巫女は言葉を止め、テーブルに乗せられた皇子の拳を見つめた。皇子の表情は穏やかだったが、拳は堅く握られている。巫女は拳に己の手のひらを重ねた。巫女の行動から、皇子の拳が表情に反して堅く握られていたことにやっと気づいた【彼】は、皇子以上に拳を堅く握りしめた。・・・気がつかなかったのではない、きっと。見ないようにしていたのだ。
「・・・ごめんね、辛いこと、思い出させたよね。」
「・・・いや。・・・・・・それはもう、済んだこと。『ゼイトゥーン』や巫女殿や辺境伯のおかげで、今の僕には、」
 言葉はふと止まった。巫女は手を伸ばして皇子の頭を撫でた。驚く皇子に、巫女は「前に撫でてくれたから!」と笑い、それから神妙な表情で、
「済んだこと・・・なのかな・・・?そうやって我慢しなくても、もう、いいんだよ。」
 もう、いいんだよ。と、もう一度巫女は告げる。その途端、皇子の目から一粒涙がこぼれ落ちる。皇子は手の甲で目をこすり、俯いて顔を伏せた。巫女は皇子の頭を撫でながら、もう一方の手で【彼】を手招きした。【彼】は一瞬の躊躇いを見せたが、巫女は無言ながらも有無を言わせない動作で手招きをした。
 静かに歩み寄った【彼】の手を、手招きしていた手で巫女は掴み、そしてその手を皇子の頭にぽんっと載せた。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ、巫女・・・!」
「だめ!このままだよ!」
 いくらなんでも主君・・・元・主君だが、やはり今でも主君なのだ・・・の頭に手を置いていいはずがない。【彼】は慌てて手を引こうとしたが、巫女は両手で【彼】の手をつかみ、動かすまいとした。そして、【彼】を見上げながら、
「あのね、わたし、街に暮らすおばさまと知り合いになったんだ。その人が言ってたよ?甘えたいときは頭を撫でてもらえばいいし、甘えさせたいときは頭を撫でてあげればいいって。」
 だから、これでいいの。と、彼女は皇子を見ながら、
「頭を撫でてほしいときにはそう言えばいいの。撫でてあげたいときは、そうすればいいの。そんなに難しいことじゃない。だって、」
 巫女は【彼】から右手を離し、その手で皇子の頭を撫でた。
「だって、手を伸ばせば届くぐらいに傍にいるんだから。」
 皇子は視線を上げ、巫女を見つめ、それから【彼】のことも見つめた。視線がぶつかったときに、【彼】は後悔した。もっと早く、こうしていればよかった、と。そうしていれば、今ここで、皇子にこんな顔をさせずにすんだ。・・・ずっと独りで戦ってきた少年に、「本当に?」と縋るような顔をさせずに済んだのだ。
 ・・・誇ってほしい。
 そう、【彼】は思った。痛烈にそう思った。願った、と言ってもいい。誇ってほしい。独りで、それでも戦ってきたことを。国を背負ってここまで来たことを。10年。小さな子どもの背がここまで伸びる期間を、耐え抜いたことも。もう嫌だ、と泣いてもいい。よくも置いていった、と恨んでもいい。けれど、己の10年を戦い抜き耐えきったことは、誇っていいはずなのだ。
 そう思うのと同時に、【彼】の手は皇子の頭をごく自然にそっと撫でた。少年が己の10年を誇るために、必要な、最初の一言が自然と漏れた。
「・・・本当に、よく、」
 声を聞く皇子の目が開かれた。
「本当によく、頑張りました。」
 飾り気もない、気の効いた一言でもない、なんてこともない、一言だった。ただ、その一言で、皇子の涙腺は完全に決壊した。皇子は喉の奥から息を漏らし、そして両手で顔を覆い、ただただ泣いた。巫女も【彼】も、焦らなかった。だって、10年。その涙には10年の意味があるのだ。泣きやむことに10年かかっても、おかしくもない。
 その間、二人の手は一人に注がれていた。離れることは無かった。


*****

 巫女がテラスで己の手のひらを太陽にかざしていることに、先客との話を終えた辺境伯は気がついた。
「巫女殿、お待たせして申し訳ない。」
「あ、辺境伯。お話は終わったの?」
「うむ。先ほど。ところで、何をされているのかな?」
「うん。わたし、思ったんだ。」
 巫女は手をもう一度光にかざしながら、
「わたしたちの手は、」
 そして満面の笑みを咲かせるのだ。
「いろんなことが出来るね!」



---------------あとがきのようなもの-------------------

いやはや、楽しすぎて詰め込みすぎた。また何か書きます。

さんざん悩んだ書き出しの一文は
「お前、廃鉱にいる場合じゃないだろ!?皇子の元で仕事しろよ!!」
というEDのワーさんへの志水のツッコミをそのまま採用しました。

なお、ワーさんなんだかローさんなんだか分からない感じなので、
ローゲルウィンド氏は【彼】で統一しています。
読みにくいけど、読みにくさもお楽しみください。

あと、巫女が知り合ったおばさまとは、25年後のうちのプリ子です。
タルシスにいる理由は、世界樹3話の第一部が終わらないと明かせないので
「いろいろあったんだなあ。」とだけ思っておいてもらえれば。

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