まよらなブログ

22章2話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


最近、ポメラさんのキーの調子が悪く、
分解してみたら、微妙にヒビが入っていたりしています。
ヘヴィーに使い込んでるからなあ・・・・・・いっそ新ポメラにしようかなあ・・・



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




22章2話
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「カリーナちゃんは、シルンさんに申し訳ないって思ってるの?」
 宿のカリーナの部屋で、マリアは窓枠に寄りかかり、カリーナに問いかけた。ベッドに腰掛けたカリーナは、首にかけた鮫の歯のペンダントをいじりながら頷いた。マリアは首を傾げながら、
「どうして申し訳ないの?」
「だ・・・だって・・・私のせいです・・・フィデリオが死んだのも・・・私が・・・お祖父様の言いつけを破って・・・」
 カリーナはペンダントを握ったままの手を口元に持っていき、そのまま顔を両手で覆った。うなだれる少女の頭をマリアは冷静に・・・というよりも冷徹に見下ろして腕を組む。
「私はね、そんなことを聞いてるんじゃないの。フィデリオは死んだ。それがあなたのせいだとは私は思わないけど、あなたは自分のせいだと思っているのよね?だから、フィデリオに対してあなたが申し訳ないと思うのなら、それは当然だと思う。」
「・・・で、ですから、」
「でも、あなたのせいだとシルンさんは言った?あなたはその後、シルンさんと会ったの?」
「い、いえ・・・」
「だったら、フィデリオの死をシルンさんがどう考えてるかは分からないわよね?そもそも悲しんでいない可能性だってないとは言えないんじゃない?」
「そ・・・そんなことないです!だって、二人とも仲のいい・・・」
「恋人同士だったから?」
 マリアは淡々と問いかけた。いつもの暢気で機嫌のよいマリアとは全く異なる様相に、カリーナはうろたえながらも頷いた。
「そ・・・そうです。」
「でも、それもカリーナちゃんの推測。違う?」
「・・・わ、私は・・・、私の、推測だとは・・・思えません。」
 カリーナはそれでも自分の意見・・・というよりも印象を口にした。マリアはふむ、と頷いた。
「なかなか強情よね、カリーナちゃんって。」
「・・・あ・・・、・・・ご、ごめんなさい・・・」
 カリーナがおずおずと謝ると、マリアは溜め息をついた。
「責めてないし、結果が出る前に持論を曲げる必要もないわよ。私が言ってることだって推測に過ぎないもの。でも、私はシルンさんを知っていて、あの人がどう考えるかは知っている。それはデータよね。データから導き出したから、推測というよりも仮説って呼ぶべきだけど、確かめてもいないから事実ではない。その点では、私も自分の考えを述べてるだけ。箱の中の猫が生きてるか死んでるか、確かめてもいない。あらゆる可能性が重なった状態。」
「・・・え・・・えと・・・」
 カリーナはそわそわと手をこすり合わせた。マリアは、はた、と我に返り、
「あらやだ!ごめんね、こんな話をするつもりじゃなかったんだけど。・・・ダメねえ、私、本気になっちゃうと科学オタクになっちゃってねえ。」
 マリアはいつもの様子で、頬に手を当ておっとりと笑った。カリーナはじっとマリアを見つめてから、スカートをぎゅっと握る。
「・・・本気になったのは・・・」
「なあに?」
「マリアさんが本気になったのは、・・・シルン・・・のためですか?」
 マリアはカリーナの拳を見つめる。力を込めつつも震えた拳。
「ええ。そうね。」
「わ・・・私・・・何か、シルンに対して、失礼なことを言っているんでしょうか・・・?だったら、教えてください。私、たとえ本人がいなくても・・・これ以上、あの人を傷つけることはしたくな・・・・・・きゃん!」
 顔を上げたカリーナの額を、マリアは小突いた。カリーナはぱちくり、と瞬きをした後に、混乱して顔を赤くして涙目で額を押さえる。デコピン自体はマルカブにもされるので慣れているのだが、マリアにこのタイミングでされるとは思っていなかった。
「それが失礼な話なのよー。」
 マリアはカリーナの隣に腰掛けた。ベッドのスプリングが揺れ、カリーナの体が軽く跳ねる。
「カリーナちゃんは、フィデリオが死んでから、シルンさんが傷ついていて不幸になってると思ってるんでしょ?」
「・・・だ、だって、だって・・・!」
「ほらほら、泣かないの。」
「だって!私、私だったら・・・!もし、マルカブやアヴィーが、し・・・死んでしまったら・・・!きっとずっと悲しいもの!」
 カリーナは自分の肩をきゅっと抱きしめた。そんなことは考えるだけでも嫌だった。
「大好きな人が私の傍からいなくなってしまったら・・・、私、幸せになんかなれない!そんなの推測するまでもないでしょう!」
「・・・そうね。」
 私が冷淡なのよね、とマリアは溜め息をついた。カリーナは一瞬、言わせてはいけない言葉を彼女に言わせてしまったのではないか、と感じて体を堅くした。マリアはもう一度ため息をついてから、
「そうね、フェイデンとドルチェがいなくなったらって考えれば、私も悲しくもなるわ。それは悲劇だと思うし、不幸だとも思うでしょう。けれど・・・、人間って、本当に不幸のままで生きれるのかしら。不幸のまま生きている人っているのかしら。」
「・・・・・・でも、大好きな人がいなくなるんですよ・・・?」
「あのね、カリーナちゃん。人間ってどうして生きてると思う?」
「・・・・・・え・・・?」
「私はね、幸せになるために生きてると思うのよ。実際に幸せになれたかとか、幸せだと感じられるかは結果でしかなくて・・・、もっと幸せになりたいと思うから生きてると思うの。それは単純な食欲や睡眠欲や性欲で満たされる幸せかもしれないし、もしかしたら悪事に手を染めることで得られる幸せなのかもしれないわよね。大切な人を失って、その人を生き返らせようと悪魔に魂を売ったとしても、それは幸せを求めたため。単純に考えれば、それだけ。どんな理由であってもどんな方法であっても、自分が幸せになるために人は行動を起こすのよ。」
 そして、とマリアは続けた。
「シルンさんは、幸せになるために努力することこそ幸せなことだ、と言ったらしいの。」
 優しい笑みで、囁いた。宝物を自慢するように、その宝物を包んだ掌をそっと開くように、囁いた。
「これを教えてくれたのは、小さかった頃のアヴィーくんなんだけどね。自分が幸せになるためと他人を幸せにするために、頑張れること。それが幸せなことだと、シルンさんは言ったようなの。」
 マリアはカリーナから視線を前に移す。なにもない宙だが、前を向いて続ける。
「あの人にとって、幸せになるための手段をとれることが幸せなの。幸せになるために生きることが幸せなら、生きることそのものが幸せなの。フィデリオの死は悲しい。樹海でも悲劇は起きた。・・・でも、そうした痛みがその後の全てを支えているなら、哀しみと同時に幸福も存在する。」
 二つは決して別物ではない、とマリアは囁いた。

*****

 その少し前から、隣室でアヴィーとマルカブとスハイルが壁に耳を当てており、オリヒメはそれを呆れた眼差しで見つめていた。
「マリアさんは、どうして猫が死んでるか死んでないかの話をしてるの?」
「『シュレーディンガーの猫』だよ。・・・・・・しかし、例え話でも、落ち込んでる女の子に話す内容じゃないだろ・・・」
「シュガーとハンバーガーの猫?」
 美味しそうな名前の猫だね?とアヴィーはスハイルと一緒に首を傾げた。あとでお師匠さんに教えてもらえ、とマルカブは言い、壁に耳を押しつけた。
「・・・あの、盗み聞きはよくないかと。」
 オリヒメがおずおずと制すると、
「そんなことはない!相手はマリアさんだ!カリーナが何を言われるか心配だろうが!」
「そうだよ!マリアさんは優しいけど怖いもん!カリーナ、泣いちゃうかもしれないもん!」
「ぴーーー!」
 と、三倍になって返ってきた。はあ・・・とオリヒメは曖昧な返事をしてから椅子に座り直す。庭で刀を披露した後、カリーナたちの話が済むまで待とうとしたが、隣の部屋からぼそぼそと聞こえてくる二人の会話が気になって、二人と一匹は壁に耳をつけている。
「・・・!カリーナ、もしかして泣いてる!?」
「ぴーーーーッ!?」
「くそ、小声になって聞き取れねえな。」
 二人と一匹がさらに耳を押しつけたときだ。(というか、スハイルの聴覚には会話が届いているのだが、内容が理解できない。)ぼそぼそとした会話の中から、マリアの言葉がはっきりと聞き取れた。
「自分が幸せになるためと他人を幸せにするために、頑張れること。それが幸せなことだと、シルンさんは言ったようなの。」
 耳を壁に押しつけていたアヴィーは、
「・・・・・・・・・あれ?」
 どこかで聞いた話だな、と首を傾げた。隣室ではマリアの話が続く。
「・・・・・・・・・でも、そうした痛みがその後の全てを支えているなら、哀しみと同時に幸福も存在する。」
「・・・そんなの!!」
 壁越しにカリーナの声がはっきりと聞こえた。声を荒くしたからだ。
「そんなの、ただの・・・ただの、慰めでしかない!そう思って、悲しいことを耐えるしかないだけ!そんなの、幸せじゃない!だって、頑張ることも耐えることも辛いことだもの!・・・自分だけでなく他人も幸せにするために頑張るのが幸せなんて・・・そんなの、やせ我慢です!」
「・・・・・・・・・、あれれ?」
 アヴィーは首を傾げながら、初めてカリーナに対して苛立ちが湧いた。自分がとても大事にしていたものが、兄妹(だと思ってるのはアヴィーだけで、ほかの者は姉弟だと思ってる)のように親しい彼女に否定されている。
「シルンがもし、そんな痩せ我慢をしてるなら、シルンは不幸じゃないですか!」
 ――、一番の幸せというのはな、アヴィー。自分と誰かが幸せになるために、頑張れることなのだ。
 そう言ってくれた人の生き様を否定されている。アヴィーはぱっと立ち上がり、扉を開けて廊下に出て更に隣の部屋の扉も開けた。
「違うもん!!」
 ノックもなしにカリーナの部屋の扉を開けて、開口一番に口にした。目に涙すら溜めて抗議する。
「違うもん!!シルンを不幸せだって決めないで!!」
「ア・・・アヴィー!聞いてたの・・・!?」
「聞こえたんだもん!」
 嘘つけ・・・とアヴィーを追ってきたマルカブが入り口で頭を抱えた。そして、マリアが足を組み直してニヤニヤしているのに気づき、これも予測してたのか・・・と更に頭を抱えた。スハイルはオロオロしつつ、マルカブの足元をぐるぐる回っている。
 アヴィーはずんずん!とカリーナの前まで歩いていき、
「シルンは不幸じゃないし可哀想じゃない!勝手に決めないで!」
「で・・・でも、でも・・・!アヴィー、聞いて。私、シルン・・・アヴィーのお母様にひどいことをしたの・・・!私のせいで、シルンの大切な人が殺されてしまった・・・でも、私はシルンに謝ってないし、それどころか忘れていて・・・」
「それは、カリーナの不幸でしょう!?」
 アヴィーはムキーー!と怒りだした。地団太も踏み出しかねない様子だ。カリーナはオロオロして
「ア、アヴィー・・・。なんで怒ってるの・・・?」
「カリーナがシルンを誤解してるからだよ!」
 アヴィーはカリーナの肩をがしっと掴んだ。
「シルンは自分と僕らを幸せにするため頑張ることが幸せだって言ってたよ!シルンは忙しかったし仕事も大変だったし怪我もいっぱいしたし婚期がどんどん遅れてるけど、でもいつも自分のできることをやって、それを幸せだって言ってたんだ!料理は下手だったけど、いつも僕においしいご飯を食べさせたいって頑張ってたんだ!カリーナだってそうでしょう!?」
「わ、私も・・・?」
「僕やマリアさんに料理を教わって、マルカブたちが美味しいって言ってくれたら嬉しいでしょう!?火傷しても包丁で指を切っても、頑張って料理してるでしょう!?」
「そういえば、この前教えたパウンドケーキは焼いてみたのかしら。」
 マリアは組んだ足をぶらぶら揺らしながら、おかしそうに笑う。
「そ・・・それはそうだけど!」
 カリーナはアヴィーの手を振り払い、立ち上がった。
「一人の人が死んでいるの!料理の話とは違う!」
「違わない!!カリーナの分からず屋!」
「・・・わ、分からず屋ってどういうこと!?」
 今度はカリーナがムキー!と怒りだし、アヴィーの頬を抓り上げた。アヴィーは頬を抓られながらも、
「喜んでもらうために料理をつくって、火傷をして、それをみんなに可哀想って言われても、カリーナは自分を可哀想だって思わないでしょう!?」
 そう主張し、カリーナの手を振り払った。
「それと同じなんだ!火傷をしても、みんなが喜んでくれたら嬉しいし、火傷をしてまで頑張った自分が嬉しいのと!シルンが幸せか不幸かやせ我慢をしてるかは、シルンが決めることなんだよ!シルンが普通の女の人とちょっと違う生活をしてても、それで幸せが逃げるとか他人が決めることじゃないんだよ!カリーナや僕やマリアさんが、決めることでもない!」
 アヴィーはカリーナの両腕を掴み、
「勝手にシルンを不幸な人にして、勝手に申し訳ないって思わないで!いくらカリーナでも、僕、怒るよ!」
 その腕を引き寄せてカリーナに抗議した。アヴィーの金色の目を見つめたカリーナは、ぽかん、と口を開いた後に、
「・・・・・・・・・ア・・・・・・、」
 震える声で、
「アヴィーに、怒られたあああ・・・・・・!」
 と、泣き出して、アヴィーは激高したスハイルに蹴りとばされた。


(22章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

「シュレーディンガーの猫」は、過去の遺産として残っているようです。


マリアさんは錬金術師(触媒を使ってるので化学者に近い・・・と思う)なので、
スイッチ入るとあらゆる現象を科学的に論じてしまう、
という設定を、今になってやっと書き出しています。

 

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