まよらなブログ

25章3話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


先日、日曜夜か月曜に更新する、とお知らせしましたが
意外と早く書きあがったので、日曜昼に更新しました。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



25章3話
---------------------------------------


 二日ほどすると、アヴィーとカリーナの熱も引き始めた。食欲も出始めた二人に果物を剥いているマルカブに、カリーナは少ししゃがれた声で「ねえ。」と声をかけた。マルカブが手元から目は離さずに、なんだ?と聞くと、ベッドに身を起こしているカリーナはちょっと躊躇った後で続けた。
「・・・あの、鍵のこと、なんだけど。」
「・・・・・・。・・・ああ。クジュラから貰った鍵か。」
 マルカブはやっと思い至った、という様子で頷いて、切った果物を皿に乗せて二人にそれぞれ差しだした。カリーナは皿を受け取り、同じように皿を受け取ったアヴィーを見る。アヴィーはオレンジを早速口に運び、カリーナの視線に「なあに?」と鼻の詰まった声で問いかけた。
「・・・あのね。麒麟と戦ったあとにクジュラから鍵を貰ったでしょう?あの鍵、三階層・・・10階の・・・フカビトのいる部屋の鍵だと思うの。」
「・・・・・・あ、そういえば、あそこ、オランピアが鍵を開けたよね。」
 アヴィーはもう一切れオレンジを口に運び、
「じゃあ、オランピア、困ってるかな?届けてあげようよ。」
 と、そんなことを言う。バカだけどホントにいい子だな・・・とマルカブは思いながら果物ナイフをしまう。カリーナはアヴィーの言葉に頷いてから、
「うん。・・・だけどね、その前に、一度。私、フカビトに会った方がいいんじゃないかって思うの。」
「フカビトに?」
「うん・・・。あまり、会いたくないけど。でも、いろんなことがあるのに、誰も本当のことを言ってない気がする。フカビトが、本当のことを言ってくれるかは分からないけど・・・。」
 アヴィーはちょっと考えてから、
「あのね、僕もフカビトに会った方がいいと思うんだ。・・・エトリアの樹海にもモリビトって人がいるけど・・・、昔、誤解から戦いになっちゃったんだって。仲直りしようと、僕の母さんや僕の友達が頑張ってるけど・・・なかなか難しいんだよ。・・・・・・だからね、僕はフカビトの話を聞いた方がいいと思うんだ。それから、戦うかどうか決めないと・・・後悔すると思うんだ。」
 だってフカビトに言い分ってあると思うんだよ、とアヴィーは言った。深王に聞かせてやりたい言葉だな、とマルカブは思いつつ、カリーナが眉を曇らせていることに気が付いた。
「カリーナ。どうした?」
「・・・う、うん・・・。フカビトと会った方がいいと思うの。思うんだけど・・・、・・・会うのは私だけじゃだめ?」
「「どうして?」」
 アヴィーとマルカブが一斉に尋ねる。カリーナはぎゅっと胸のあたりを押さえて、囁いた。
「・・・怖い記憶を覗かせたくないよ。」
 アヴィーは首を傾げたが、「フカビトが自分にとって恐怖の記憶を覗いた。」とカリーナが言ったのを聞いているマルカブは、溜め息をついた。
「じゃあ、尚更、お前だけで行かせるわけに行かないだろ。二度も思い出したくないだろう?」
「そ、そうだけど・・・。マルカブだって、怖い思い出とか嫌な思い出があるんでしょう・・・?」
 カリーナはマルカブの眼帯を見つめて、恐る恐ると問いかけた。アヴィーは話に付いていけないなりに、不思議そうにその眼帯を眺める。マルカブは溜め息混じりに、己の左目を押さえてから、アヴィーのベッドの端に腰を降ろした。
「・・・こんな話、ガキにするもんじゃないと思ってたけど。」
 聞いてもらえるか、と彼は言う。
「お前らは俺が考えてるほど、子どもでもないし。俺が深王をなんとなく許せないのも、きっとこの話のせいなんだ。それで判断を間違うわけにもいかないし・・・、・・・お前らに聴いてもらえば、俺にとってのこの話の意味も変わるんだろうから。」
 カリーナとアヴィーは頷いて、大人しく話し出されるのを待った。マルカブはどこからどこまで話そうかな、と逡巡しつつ口を開く。
「・・・俺には、年の離れた妹がいてな。・・・12歳離れてるから、生きてれば、19だ。」
「生きてれば・・・?」
「死んじゃったの・・・?」
 おずおずと問いかけてくる二人に、マルカブはゆるく頭を振った。
「分からない。海に落ちて、生き別れだ。妹はたったの4つだったから、・・・生きてる可能性の方が低い。」
「海に、落ちたの・・・?」
 カリーナはきゅっと掛け布を掴んで問いかけた。鈍いアヴィーだが、・・・いや、アヴィーだけが分かることかもしれないが、アヴィーはカリーナの問いかけの重さを思って、彼女を見た。カリーナが海に落ちて、アヴィーがそれを追って飛び込み、それをマルカブが助けなければ、自分たち3人は今ここにいない。暗い海に落ちなければ、すくい上げられることもなかった。自分たちにとって、海に落ちる、ということはそういう意味だ。でも、マルカブにとっては、そうではない・・・のかもしれない。同じ体験を通しても、同じ意味を持つとは限らない。そんな悲しさだ。
 マルカブは少し考えてから、俺の故郷は港町でな、と続けた。
「交易で栄えた、小さいなりに豊かな街だった。ただ、そのおかげで海賊に襲われて、あっという間に焼け上がった。・・・丁度、お前と同じ年のころだよ、カリーナ。16の俺は、妹を抱えて、親父の剣を持って、とにかく安全な場所へ逃げようとした。妹を隠す場所さえ見つかれば、と思っていた。けど、海賊に見つかって、・・・妹を抱えたままで、剣を抜いたわけだよ。」
 マルカブは、あの剣をな、とテーブルの上に鞘ごと置いている突剣を顎でしゃくった。
「お父さんの剣なの・・・?」
「ああ。家の中で一番・・・武器として使えそうな剣を持ち出した。それが親父が使ってた剣なんだから、まあ、俺もまだまだ子どもだったんだろうな。模擬剣でも、自分の剣を持ち出すのが一番戦えるはずなのにさ。」
 アヴィーはきゅっと唇をすぼめてから、「僕もきっとそうするよう。」と言った。お前もまだまだ子どもだからな、とマルカブは苦笑した。アヴィーは頬を膨らませたが、反論はしなかった。
「・・・まあ、相手は年中どっかの村や船を襲ってる連中だし、人数も多かった。剣は逆に奪われて、俺の左目はあの剣で潰された。」
 アヴィーとカリーナは、ひゅっと喉の奥から音を出して驚いた。マルカブは、そんな顔をするなよ、と苦笑した。
「で、でも!お父様の剣で刺すなんて・・・酷い・・・!」
「それにマルカブのお父さんだって・・・!自分の剣がマルカブに刺さったら辛いよ・・・!!」
 そのまま、うわあん、と泣き出しそうな二人に、そんな顔をするなよ、とマルカブはもう一度言った。だが、苦笑は無かった。アヴィーの頭を撫でてから、カリーナに手を伸ばして彼女の頭を撫でる。柔らかな子どもの髪の感触に、急に懐かしさを感じた。しかし、その理由は考えないようにした。
「・・・それでも、妹のことは離さなかったんだ。親父の剣を奪い返して、視界が半分になって、逃げようとして、前が見えてなくて、海に落ちた。海に落ちたのは、俺のちょっとした不注意だ。」
「「ちょっとした、じゃない!」」
 二人は一斉にそう主張する。極限状態じゃないか、と主張する。それでも俺の不注意なんだよ、とマルカブは思いながらも二人の主張を否定はしない。しかし自分の思いも主張しない。ありがとな、とだけ伝えて話を進める。
「・・・海に落ちても妹を離さなければ良かったのに、俺は気を失って、・・・気が付いたときには漁師に助けられてた。・・・故郷も焼けて、両親も死んだことも分かってな、しばらくその漁師のとこで世話になりながら妹を捜してた。でも、見つからなかった。生きてるんだか死んでるんだか分からなければ、諦めもできなかった。・・・離してしまったのは俺なんだから。」
 子どもたちは何も言わない。何も言えない。そんなことはない、と視線は一生懸命訴えているが、口に出すことは出来ないと知っている。言えば、マルカブはただゆるゆると首を振るだけだと知っている。何度も否定させることでその度に小さく傷つくことを知っている・・・程度には、子どもたちは子どもではなかった。
「・・・死んでいるのに、捜し続けたら一生を棒に振るってな、恩人の漁師が、死ぬ前に言ったんだよ。10年捜して見つからないなら死んだと思って諦めろ、って。それが18のときだ。その人には世話になったし、一人で生きてく術も教えてもらった。だから、遺言は守ったんだよ。」
「・・・じゃあ、10年、妹を捜したんだ・・・。」
「でも、見つからなかったの・・・。」
 そうだよ、とマルカブは答えた。
「恩人は、俺が未練がましいことも知っていたから、それが俺のために言われた言葉だってことは、そのときの俺でも分かった。だから、10年は妹を捜しながらあちこち行って、10年過ぎたら妹捜しは諦めた。まあ、すっぱり諦めたわけでもないけどな。・・・・・・でも、最近、姫さんの話を聞いて、本当にそれでよかったのかって思ってる。」
 もしかしたら妹は俺を捜しているのかもしれないのにな、とマルカブは苦笑した。苦笑した以上、それは冗談に近いのだ。けれど、頭の片隅に、もしくは心の澱のように、ずっと残り続けていく。
 ・・・・・・、マルカブは妹さんを捜しに行っちゃうのかな・・・・・・。
 カリーナは一瞬そう考えて、それは嫌だ、と思って、そんなことを思った自分を恥じた。自分の傍からいなくならないで、と思った自分を恥じながら、もしかしたら彼が自分たちではなく妹を選ぶのではないか、と不安になるのだ。マルカブの家族が生きていれば喜ぶべきなのに。
 マルカブは一息ついた。
「・・・俺にとって、思い出したくない記憶ってのは、この目が潰されたとき・・・両親が殺されて、妹を離してしまった、その記憶だ。それをフカビトに引きずり出されたら、俺だってその瞬間に固まるさ。」
 けどな、とマルカブは顔を上げた。
「・・・その後に、思い出すよ。お前らがそんな顔でこんな話を聞いてくれたこと。お前らが俺のことを気遣いながら聴いてくれたことは、俺にとって嫌な記憶ではないんだから。」
 だから俺もフカビトに会いに行くよ、とマルカブはカリーナに告げて頭を撫でた。カリーナは頷かなかったが、頭を撫でられるままだった。撫でられるままで、やっぱりマルカブをフカビトに会わせたくない、と思うのだ。
 ・・・その理由が話を聞く前とは異なっていることに、カリーナは泣きたくなった。



(25章4話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

ちらちらと話題では出てきていた、赤パイの妹の話です。
割と初期には、なんとなく出来ていた設定ですが・・・
プロローグの時には出来てなかった設定なので、
二人を追って海に飛び込むときにこの設定を使ってたらなあ・・・と悔やまれます。
まあ、そもそも書く気なかったからなあ、妹がいるよ設定。

書いてる期間が長くなると、いろいろ出来てしまうよね。

スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する