まよらなブログ

26章2話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


サイトを見てれば分かると思いますが、
志水は「副官とか補佐役とか腹心の忠誠心萌えーー」なので、
今回の話はオランピアとクジュラさんへの「萌え」の可能性を追求してみました。
書けば書くほどオイシイなあと思いつつ、
しかしこの位置で本当にオイシイなあ、と思うキャラは世界樹4にいるように思います。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



26章2話
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 妹との約束なんだ、と、かつて主は寂しそうに微笑んだ。白い石を見せて、微笑んだ。
「・・・元々、体が丈夫ではなくてね、昔語りを聞いては、【白亜の供物】があれば元気に走れ回れるのに、と残念がっていた。」
 その度に私や侍女に宥められて、頬を膨らませるのだ、と主は懐かしそうに笑い、白い石をそっと撫でた。
「この【星界の欠片】は、【白亜の供物】を生み出すもの・・・。これを集めていけば、いつか必ず、【白亜の供物】を手に入れることができるだろう・・・。」
 そうすれば妹は、と呟く主の表情は、先ほどとは全く異なっていた。創られたばかりのオランピアには、その表情の意味は分からない。だが、配線が通る背筋に、ピリピリした電流が走るのは感じた。
「・・・そうすれば、あの子を『人』に戻すことも出来る・・・。フカビトから海都を守るための人身御供にするなど、・・・私が許さない。」
 そう呟いた主の表情は『憎しみ』であると、オランピアに教えたのは彼女の世話役を任された近衛兵だった。
 トゥレイスと呼ばれた背の高いその兵士は、『憎しみ』の感情について説明しながら、街の中心にある世界樹を眺める。
「・・・陛下が憎悪するのは、当然なんだ。姫様は、フカビトの真祖の力を御身に封じられたんだから。誰かが甘く囁いて、姫様の兄王様を思うお気持ちを利用した。・・・誰かが恐怖を煽って、幼い姫を人でないものに変える禁呪を吹き込んだ。・・・陛下の怒りも憎悪も・・・絶望も、もっともだ。そして、【白亜の供物】に寄せる希望も、もっともだ。・・・どんなに世界のためだと割り切っても・・・、憎悪も希望も消せやしないよ。消す必要なんかないはずだ。」
 世界樹を見つめる眼差しも、まるで『憎んで』いるかのようだった。そう伝えると、トゥレイスは驚きでオランピアを見つめ、それから微笑んだ。
「・・・君は、育て甲斐がありそうだなあ、オランピア。機械でなくて人としてさ。」
 自分は機械だ、と何度告げても、彼は「君をただの機械だとは思えない。」と何年も答え続けた。そして彼は、本当に人間のようににオランピアを扱い続けた。そうして、戦術からチェスのルール、花の名前に人の感情、あらゆるものを教え続けた。
 そんな彼がオランピアに教えようとしたことの一つは、「葛藤から逃げないこと」だった。そして、記憶も封じ、体を機械に変えて『深王』と名乗り始めた国王を、彼は晩年まで心配し進言し続けた。「ご自分の目的をどうか思い出してほしい。」と、妹の記憶を無くした深王に進言したところで意味がないことなど、聡い彼には分かっていただろう。だが、それでも伝え続け、最終的には謹慎まで命じられた。
 オランピアが、かつての世話役に最後に会ったのは、彼がこの世を去る数日前だ。彼は一つだけ彼女に懇願した。「どうか最期まで陛下の味方でいてやってくれ。」と。「陛下が君を忘れたとしても。陛下が君を裏切り者だと言ったとしても・・・、・・・世界樹の意思に逆らうとしても、・・・どうかあの方の味方でいてやってくれ。」
 そう懇願した。
 深王の味方であること。ずっと、そのつもりだった。そのために『生きて』きた。深王の命には従い、ともに戦い、盾になった。トゥレイスに頼まれたからではなく、自分の意志で、深王の味方であり続けた。大儀のために戦う王を助けたい、とそう思った。自分の役目、作られた意味とは別に・・・、孤独に戦う王を助けたいと思った。
 その自分の意志には、間違いはない、そう言い切れる。
 ・・・・・・・・・、けれど、本当に『味方』だったのか?
 オランピアは白い森を走り、自問する。
 ・・・・・・・・・、何の見返りもなく味方であり続けたのか。
 そうだ、と答える自分がいる一方で、ならば何故、と問いかける自分もいる。ならば、何故。
 ならば、何故、私は『アルゴー』から逃げてきた?
 【白亜の供物】を持っている・・・そう言う『アルゴー』から逃げてきた。それが自分を動揺させるための嘘なら、戦えばいい。本当に【白亜の供物】を持っているのなら、それを譲ってほしいと懇願することも、深王に届けてほしいと頼むことも、海都の姫に渡すべきだと伝えることも、戦い奪い取ってくることも、出来たはずだ。【白亜の供物】をどう使うか・・・、少なくとも深王がどう使おうとしたかは、オランピアは知っている。だから、かつての深王の願いを叶えるだけの、きっと単純な話なのに。
 ・・・その願いを叶えたら、どうなるのだろう。オランピアの中は、そんな漠然とした思考で満たされる。それは不安、と呼ばれるものだ。
 その願いを叶えたら、海都の姫は人に戻る。そして・・・深王も記憶を取り戻す。それは、喜ぶべきことだ。深王の100年の孤独は解消され、海都がフカビトで支配される可能性は一つ無くなり、深王は【魔】との戦いに集中できる。・・・ただ、一点。フカビトの力の一部を封じている姫が人に戻る、ということは、フカビトにすべての力が戻る、という懸念はある。フカビトの力を削ぐために、姫は利用されその身にフカビトの力を宿したのだから、フカビトに力が戻ると言うことは戦いは不利になる。その点だけは、素直に喜ぶことはできないのかもしれないが・・・、だが・・・
 と、オランピアは顔を上げて立ち止まった。そして、森の奥に見える海都の世界樹の幹を見る。
「・・・まさか・・・、そのために・・・」
 トゥレイスの世界樹を見る目に、何故憎しみがこもっていたのか。深王が記憶を無くす必要が、本当にあったのか。海都の姫にフカビトの力を移植する技は、どこから伝わったものなのか。・・・100年前の海都が文明国として栄えていたのは・・・誰からもたらせた知識故だったのか。・・・そもそも、【魔】と戦っていた当人は誰だったのか。
 世界樹の白い幹を見つめて、オランピアは呆然と呟いた。
「・・・あなたが、姫を利用した・・・?」
 呟きは、予想以上にオランピア自身を抉った。そして、よろめきそうになる自分にオランピアは驚いた。戦いが己の役目だと、そうやって造られた自分が、人々の思惑や真意に・・・動揺している。これではまるで、人ではないか。
 ―― 君は、育て甲斐がありそうだなあ、オランピア。機械でなくて人としてさ。
 そう言われた言葉を支えにして、よろめく足を踏ん張らせる。この動揺は先ほどまでの自問自答の答えだ、と自覚する。もし、本当に世界樹が兄妹を利用したのだとしたら、打ちのめされる暇はない。深王は真に孤独だったことになる。
 オランピアは両手で頬を包んでから、その頬を思いっきり叩いた。人間の少女そのものの仕草で、機械の思考で意味もないと思えることを思い切り行う。
 そして、髪を払って顔を上げた。
(・・・『アルゴー』が、動揺させるための嘘をつくとは思えない。)
 わずかに冷静さを取り戻したオランピアは、再び走り出した。向かう方向を変えて走り出した。
(・・・あの場を切り抜けるためなら、もう少し違う嘘をつくだろう。)
 『アルゴー』が嘘をつかない、とは思わない。大人たちは仲間を守るために、使えるものは使うだろう。少女はあれで厳格だから、冷酷な嘘も割り切って使うだろう。だが、・・・「誰かを救えるかもしれない」という甘い嘘を、彼らは吐けない。期待させて裏切るような真似を、彼らは出来ない。・・・つまり、本当に【白亜の供物】を持っていて・・・しかし使い方を知らないと考えられる。
(・・・となれば、その【白亜の供物】を求めた人々の元に届けさせよう。)
 それが、深王の100年前の願いだった。世界のためでも、海都のためでも、世界樹のためでもなく、深王自身の願いだった。
(・・・深王様ご自身が忘れていても・・・、私が覚えているのなら、)
 例え、その結果、深王が自分を捨てることになったとしても、
(・・・100年前のあの人自身の願いのために、私は行動しよう。)
 例え、その結果、自分が哀しみを背負うことになったとしても、
(・・・誰のため何のためでもなく、あの人自身のために、行動しよう。)
 味方でないより、マシだと思った。


*****

 白亜の森の魔物を斬り捨てた刃の先に、機兵の少女が現れた。クジュラは、魔物の屍の中で刀を下ろさずにいる。斬り捨てた魔物は花の魔物だったので、屍といっても花びらが舞う風雅な・・・だからこそ異様な光景ではあった。
 刃を向けるクジュラの殺気は膨らむが、機兵の少女は戦う気配を見せなかった。今、駆け出せば、あの首を落とせる・・・かもしれない。そう感じさせる程度には、機兵の少女は無防備だった。
「・・・少しだけでいい。待って。」
 少女は口を開いた。
「話を聞いてからにして。」
 この少女と対峙したことは、数える程度。会話を交わしたことは、ほとんど無い。それでも、彼女の口調が機兵というより少女のものに変わっていることに気が付いた。
 ・・・だが、刃を下ろせるはずもなかった。
 少女の様子から、彼女が本当に話をしにきたのは明白だ。その後、戦いになるかもしれないが、今の彼女に戦いの意思はない。刃が下ろせないのは、自衛のためではない。この機兵によって失われた自分の部下を思えば、刃を下ろせるはずもなかった。
 ・・・アレに戦いの意思がないうちに、首を落として・・・
 部下を思えばこそ、膨らむ殺気。飛び出すために、足に力を込める。足裏に、固い地面の感触。
 少女は、目を伏せて、数秒逡巡した。そして、クジュラの剣士としての矜持に賭けることにした。彼女は、目を伏せたまま、すっと膝を折る。
 両膝を地面につけ、両手を拳にして地面につけ、頭を垂れた。
「お願い。まずは話を聞いて。」
 懇願の土下座ではない。戦いの意思がないことを示すための姿勢だ。そして、無防備な相手の首を落とすことを良しとしない、剣士の矜持への信頼であり・・・だからこその挑戦だった。
 クジュラは狼狽した。宿敵とも呼べる相手が頭を垂れたことに。無防備な相手に自分の怒りを向けることが出来なくなったことに。何より、機兵が剣士の矜持を信じていることに。
「・・・・・・、」
 クジュラは奥歯を噛みしめてから、
「・・・卑怯者。」
 そう吐き捨てて、力を抜いた。刃こそ下ろさなかったが、飛び出すための力を抜き、戦うための殺気を抜く。
 オランピアは頭を垂れたまま、ありがとう、と囁いた。少女に礼を言われて、クジュラは視線を泳がせた。クジュラが感じた居心地の悪さは、宿敵に礼を言われたというよりも、少女に礼を言われたという気恥ずかしさだ。
「・・・伝えたいことは一つだけ。でも、その前に確認したい。・・・あなたも『アルゴー』に【白亜の供物】のことを話したの・・・?」
「・・・あなた『も』、ということは、貴様『も』か?」
「・・・私は【星界の欠片】を彼らに渡した。」
 クジュラは、細い目を微かに見開いた。微かに上擦る声で聞く。
「・・・・・・それは、もしや、」
「・・・かつて、深王様が集めていたもの。・・・妹君との約束のために。」
 クジュラは目を閉じ、ゆっくりと唸るようなため息を吐いた。目を開けたときには、思わず刃を下ろす。そして、問いかけた。
「・・・・・・間に合うのか・・・?」
 クジュラの声に希望が宿ったことに、オランピアは気づく。【星界の欠片】を集めるたびに、深王の声に宿った希望と同じ響きを感じて、彼女は一度目を閉じた。
 ・・・・・・こんな響きで呟ける臣下がいるのなら、海都の姫は孤独ではなかったのかもしれない。
 そう感じて、姫に会ったこともない彼女は何故か安心した。
「・・・私は、間に合わせたい。それは、深王様の・・・希望だったから。」
 オランピアは顔を上げて、クジュラを見つめた。
「・・・間に合う・・・かもしれない。私は【星界の欠片】を渡し、あなたが・・・」
「『アルゴー』に「空の玉碗」を渡した。」
「そして、『アルゴー』は【白亜の供物】を持っている、と、そう言った。」
 伝えたいことはそのこと、とオランピアは呟いた。
「・・・間に合う、かは、分からない。でも・・・、もう、あなたたちが『奇跡』と呼ぶものは起きている。」
「・・・・・・まったく事情を知らない『アルゴー』によって、か。」
 自嘲気味に呟くクジュラを、オランピアは無言で肯定した。その自嘲を、自分の無力さへの苛立ちを、肯定した。彼女自身も、同じものを感じているから。
「私・・・私たちは、何も出来なかった。けれど、『アルゴー』が奇跡を起こしたのなら・・・それを潰さないこと・・・それは、私たちにしか出来ない。」
 そうでしょう?とオランピアは視線で尋ねる。クジュラは静かに彼女を見つめ、問いかけた。問いかけと言うよりも、言葉での確認だった。
「・・・・・・、今の貴様の願いは、・・・俺の願いと同じだと、そう、考えていいのか?」
 クジュラの確認に、オランピアは頷いた。



(26章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------


志水は「諸悪の権化は世界樹」派なので、こんな話です。
悪い世界樹、というより、視点がマクロすぎて話し合えない存在、というか。
某アンチスパイラルとか某インキュベーターとかの思考に近いと思われます。


ちなみに、眼鏡バリの曾々じいちゃん・トゥレイスの最期は、
深都で出来た内縁の妻と子に看取られながら海都に残してきた妻の名を呼んで事切れる、
という、罪深いけどどーーーーでもいい裏設定が存在します。

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