まよらなブログ

28章5話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

本日、法事だったため、更新がちょっと遅くなりました。
無事に日曜に更新できてよかったです。


来週の日曜は出張のため、
17日(火)に更新したいと思ってます。
(が、出張でそれどころでないかもしれない。)



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。

28章5話
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「・・・ご、ご加減はいかがですか?」
 突然の深王・・・いや、兄王であるザイフリートの登場に、カリーナはそう挨拶をした。通り一遍の挨拶のようだったが、質問でもあった。【白亜の供物】を口にして、変わりはないか、という確認でもある。
「悪くない。卿らの働きのおかげだ。礼を言おう。」
 と、ザイフリート王は答え、クー・シーが咳払いをした。その意味を理解した彼は、
「・・・失礼をした。姫君のご助力に、海都の王にして深都の王から感謝申し上げる。」
 典雅な礼と共に、聞いたこともない丁寧な物言いで言い直す。立ち上がって彼の背後に控えたフローディアが面白くなさそうに唇を曲げたが、不満は口にしなかった。
「い、いえ。いいんです。・・・ああ、もう!クー・シー。つまらないことにこだわらなくて、いいんだよ。」
「しかし、ただ今、姫は『姫』として元老院をご訪問されているわけですから、こう、しっかりガツン!と思い知らしめませんと!こういったささやかなやり取りから外交というものは始まるのですよ多分!それに、今までの深王様はムダに偉そうでしたから、おじいちゃん、やり込めてやりたい!」
「黙っててッ!」
 カリーナに睨まれて、クー・シーは肩を竦めて口を閉じた。カリーナは肩を狭くして、ザイフリート王に頭を下げた。
「・・・も、申し訳ありません。」
「いや。そのようなやり取りの方が、『アルゴー』らしい。」
 一体、『アルゴー』ってどんな風に思われているんだろう・・・とカリーナは呆れつつ、オランピアもグートルーネ姫もやってこないことを確認し、
「あの・・・深王さ・・・ザイフリート様。妹君は、お元気にされていますか・・・。」
「・・・我が妹は、もともと体が弱い。・・・人の体に戻ったがために、かつての床に伏せがちな病弱な体に戻ってしまった。・・・フカビトの力を封じていたその反動もあってか・・・、今は寝込んでいる。・・・ああ、心配せずとも良い。意識ははっきりしており、我に100年間の物語を聞かせてほしいとせがんで、なかなか寝付かない。グートルーネが回復したら、逆に彼女の100年の話を我が聞く約束になっている。」
 そう語るザイフリート王の表情は柔らかい。記憶を本当に取り戻し、かつてのように、仲の良い兄妹として接しているのだろう。
 カリーナは、ほっと溜息をつき、「良かった。」と囁いた。その囁きを、ザイフリート王は不思議そうに眺める。
「・・・何故、そこまで?」
 カリーナは顔を上げ、王を見た。王はカリーナを見下ろしながら、
「我々と卿等には、関係はない。ミッションを受けたからには、達成する義務はあり、言葉を交わすうちに情が湧くこともあろう。だが・・・、姫君の今の溜息は、安堵に満ちている。我ら兄妹の仲を、本当に心配している。」
 カリーナは「なんだかオランピアと話しているみたいだな。」と思いながらも、頷いた。
「はい。私は、王様と姫様が仲直りをされて、嬉しいです。」
「それが、何故なのかと問いかけているのだが。」
「何故と言われても・・・。仲良くしていないよりは、仲がいい方が嬉しいのが当たり前・・・」
 と言い掛けたが、カリーナは首を傾げた。
「・・・そうじゃないことも・・・ある・・・かも・・・。」
 好きな人が他の人と仲良くしていたら嬉しい・・・とは言いきれない。カリーナ自身、全く無関係の人間に自分と異母兄が仲良くしていることを喜ばれたら違和感があるかもしれない。でも、カリーナは今、喜んでいるのも事実だ。
 ふと、カリーナは思い出した。以前、異母兄が自分の命を狙っていないと分かったときにアヴィーが喜んだことを。カリーナ以上にアヴィーが喜んだのは・・・
「・・・ええっと・・・、多分、私にとってお二人は・・・他人ではないから・・・だと思います。」
 ザイフリート王は、明らかに疑問を浮かべつつも反論せずに続きを促した。カリーナはそわそわと手を擦り合わせつつ、
「勿論・・・親しいわけでもありませんが・・・。私の冒険に、少なからず影響を与えた方々です。私の、国に帰るという決意にも。それに、深王様のことをアミディスさんは尊敬してらしたし・・・私の知っている街の方はグートルーネ様のことを慕っています。私と全く無関係でない方々が、・・・幸せを感じているのは嬉しいです。」
 深王はじっとカリーナを見つめた後に、静かに告げた。
「貴女は王位を継ぐのだと聞いている。」
「はい。そのつもりです。・・・あまり、向かないとは思うのですが。」
「今、そう確信した。」
 深王は溜息も交えて囁いた。憐れみか哀しみか、寂しげな優しさが声に響く。
「・・・ささやかな関係を、貴女はとても大切にしてしまうのだろう。そして、人々の関係も同じように尊重するのだろう。・・・それは、王が選択するときの足かせにもなり、・・・心臓に食い込む棘にもなる。・・・・・・苦しむのは、貴女だ。」
「・・・そして、記憶を無くしたのでしょうか?」
「・・・我の話をしているのではない。」
「・・・ご心配していただき、ありがとうございます。・・・でも、私は・・・そのささやかな関係性を守るために、王になるのですから。」
 カリーナは少し考えてから、言葉を続けた。
「私個人は、割と・・・世界がどうなろうと構わない方です。私が100年前のこの街にいて・・・、ザイフリート様のような決意が出来たか、と聞かれたら、出来なかったと答えるでしょう。自分の肉親・・・家臣が家族や恋人や友人と別れてまで、世界のために【魔】と戦えるかと聞かれたら、私は『否』と答えます。・・・何故なら、私は、みなが大切な誰かと居られるために【魔】と戦うと、答えるからです。」
 私が戦う目的は世界のためではないからです、とカリーナは囁いてから、
「しかし、それではきっと手遅れになるのでしょう・・・。100年後の今もなく、異国の姫が大切な仲間と出会えた事実すら、存在しないかもしれません。私が、この街で仲間たちに出会えたのも、彼らに出会って私がもっとも大切にしたいことに気付いたのも、私の目的のために王位を継ぐと決意できたのも、・・・ザイフリート様と家臣の皆様が、かつて手を振り切ってでも戦う決意をしてくださったからだというのに・・・、私は貴方と同じ決意はきっと出来ません。」
 それは私の弱さです、とカリーナは囁いた。そうだ、弱さだ、とザイフリート王も囁いた。
「・・・それが己の弱さだと、我も囁ければ、目的と手段を取り違えることもなかっただろう。我は、この街と・・・この街を包む世界と・・・この街に包まれている民を守りたかったため、【魔】に戦いを挑んだというのに、【魔】を倒すことが目的になっていた。もし、グートルーネがフカビトの浸食に耐えられず自我を手放していたら・・・、フカビトと化したあの子を親にして、この街はフカビトに憑かれた人間で溢れていたであろう。そのとき、我は・・・この街を薙ぎ払ったに違いないのだ。そして【魔】を倒した後に愕然とするのだろう。」
 「しかも、【魔】を倒した高揚感も過ぎ去って、しばらくしたころにだ。」とザイフリートは苦笑した。
「【魔】を倒すその一点に集中できない、その弱さを弱さだと認めていれば、・・・その一点に集中できない理由も思いついたであろうな。真の目的があるからで、【魔】を倒すことは手段だからだ。その目的を果たせるのであれば・・・、【魔】を倒す以外の方法もあったかもしれぬ。」
 その言葉に、その場にいる人間の全ての目がザイフリートを捕らえた。王は小さく首を振る。
「その方法を思いついたわけではない。ただの思考の戯れだ。世界・・・そこに暮らす人々の命を守るために・・・、【魔】を倒すことは確かな手段である。」
 【魔】を倒せば脅威は一つ減る。脅威を叩くことは王の義務であり、それは民が健やかに暮らすために必要なことだ。だから、カリーナも【魔】を討つことを反対はしない。同時に、【魔】を討たずとも脅威を退ける可能性を考えることにも反対はしない。目的は、人々が健やかに暮らせることだ。そこに至る方法は何でもいい。だから、ザイフリートの言う「思考の戯れ」には納得はするが意外性を感じてるわけではない。(ザイフリートがそんなことを言うことを意外には感じているが。)
 ・・・でも、何だろう・・・。今のザイフリート様の言葉・・・。私たち、何かを見落としている気がする・・・。
 カリーナはきゅっと胸の前で拳を作り、胸を押さえた。目的と手段。【魔】を討つことを本当に『目的』としているのは誰なのか・・・そして、それは実のところ『手段』ではないのか・・・
 カリーナの思考は、ザイフリートの言葉に遮られた。
「・・・貴女は、己の弱さを知りつつも目的を変えないのだな?」
「・・・、はい。私はきっと、・・・私がこの街で仲間にしてもらったようなことを、他のみなが当たり前にしてもらえる国が作りたいんです。頭を撫でてもらったり、一緒にお菓子を食べたり、くだらないことでからかわれたり・・・、そんな当たり前のことを当たり前に続けられる国にしたいんです。その当たり前を壊すのは、戦争だったり飢餓だったり天災だったりするのでしょう。そんなことで、当たり前の幸せが続けられなくなって、誰かが幸せでなくなって、・・・それが巡り巡って私の仲間まで不幸にするかもしれないなら・・・私は、巡り巡る前にどうにかしたい。」
 つまり、この少女ははっきりと言っている。何よりも私の仲間が大切だ、と。世界がどうなろうと構わない方だ、と言ったが、彼女は国がどうなろうとも構わないのかもしれない。ただ、己の国で起きる不幸や悲劇が巡り巡って、この街にまで届く可能性も考える。その可能性を防ぐついでに、自国の民が幸せになり、国が立ち行き、世界が守られる。個人的な目的が大きな目的に繋がっていく、と彼女は考えている。
 自分とは発想が逆なのだろう、とザイフリートは呆れと感心が混ざった目でカリーナを見つめた。自分は世界を守ることで、国を守ろうとし、妹も守ろうとした。カリーナは、仲間を傷つける可能性を摘むために、国を守ろうとする。出発点は逆だ。逆だが、・・・結実する結果は同じかもしれない。
(・・・目的に達する『手段』がいくつもあるように、結果に達する『目的』もいくつもあるのだろう。)
 ザイフリートは息を吐く。視野とはこうして広がるのだろう、と改めて思う。
「・・我は、貴女のような発想は出来ない。貴女が、100年前の我と同じ決意が出来ないように、だ。・・・貴女の目的は・・・極めて個人的・・・我が儘だろうと思う。だが・・・・・・、それが何に重きを置くなど、人それぞれであろうし、結果として同じ世界を目指すなら、」
 ザイフリートは手を差し出した。記憶を取り戻しても、機械に作り替えた体はそのままだ。猛禽の爪のような手を、カリーナは見つめた。
「・・・貴女と我は同志であろう。」
 カリーナは言葉を聞いて、ザイフリートを見上げた。一度、拳を握り、そしてそれを解いて、手を伸ばした。
「はい。・・・私は、私の目的のために尽力します。その経過の中で・・・、きっと世界は守られます。」
「我は、我の方法で尽力し、その結果、世界は守られる。」
 王と姫は握手をした。
「・・・・・・これほど心強いことはない。」
 歴戦の戦士でもあるザイフリートは、そう笑った。オランピアや家臣やケトスや世界樹も、戦士である彼には心強い存在だったに違いない。だが、彼の『王』である部分は孤独だったのかもしれない。
 カリーナはそう思い、少しだけ指に力を込めた。王の孤独を支えるのは、違う方法で同じように戦う誰か、なのかもしれない。
(・・・そうだ、セイリアス様に・・・、・・・兄様にお会いしたら、こんな風に握手をしよう。)
 そして、私が何のためにどう戦うかを伝えて、彼がどう戦ってきたのかを聞こう。
 それが100年の王の孤独と死に向かう王の孤独と、私のこれからの孤独を支えるならば、これほど心強いこともない。カリーナはそう思いながら、
「はい。私も、心強く感じます。」
 瞳に力を込めて、頷いた。



  カリーナがフロレアルと約束をした『帰国』の日まで、あと10日。



(29章に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

ちょっとバタバタと忙しい中で
言い切ることは難しい部分の話を書いたので
書けた感じがしません、むむーん。



目的と手段に関してプリ子が感じた違和感は二部へ引き継がれるつもりで書きましたが、
うっかり忘れてしまいそうな予感もします。


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