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まよらなブログ

29章5話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


前回の話と今回の話、
サイトの方でアップ中の追悼企画と行ったり来たりしながら書きました。
落差が大きすぎて、「何やってんだ私・・・」とたまに冷静になってました。

まあ、どちらも「喪失」っていうテーマでは一緒なのかもしれません。
本当に喪失感があるのはどっちだ?っていうことでも、一緒なのかもしれません。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




29章5話
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 カリーナがフロレアルと約束をした『帰国』の日まで、あと3日。


 今日こそ言うのだ。
 カリーナは鮫の歯のペンダントを握りしめて、自分に言い聞かせた。
 国に帰るんだ、と言って、ちゃんとお別れをするのだ。今までありがとう、と言って、最後まで付き合えなくてごめんなさい、と言って、私はあなたたちのことを絶対に忘れない、と言って。笑って、さよならをする。
 さようならを言う相手は、絶対にマルカブだ、と決めていた。他にいない。
 大丈夫、上手に言える、泣いたりしない、マルカブが引き留めても「もう決めたことだから」って言える、大丈夫。
 港のベンチに座って、カリーナはそんなことを自分に言い聞かせている。着ている服はマリアに作ってもらった白のワンピースで、足下はサンダルだ。海沿いを歩くには、様になる格好ではある。楚々とした感じも、マルカブには好評のようだ。(まあ、自分の妹か娘にはこういう格好をしてほしいな、という部類の安心感だろうが。)避暑地のお嬢さん、といった格好に、鮫の歯のペンダントは浮いてはいたが。
「・・・、カリーナ?」
 マルカブに呼ばれて、カリーナははっと顔を上げた。飲み物を買ってきたマルカブは、カリーナの隣に座って彼女の顔をのぞき込んだ。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「・・・ううん、大丈夫。・・・それより、ありがと。」
 マルカブが買ってきたジュースに手を伸ばして礼を言う。疲れたんならそう言えよ、とマルカブは言い、カリーナは頷いてストローを口にふくんだ。フルーツジュースの香りが口に広がるが、味気ない。
 デートして!とお願いしたものの、何も特別なことはない。いつもの買い出しに行ったり、散歩に行くのと同じような道を辿り、同じような会話をしている。マルカブは、年頃の娘が「デート」というものに憧れているのだろう、と勝手に解釈したらしく、飲み物を買ってきてくれたりドアを開けてくれたり、いつもよりお姫様扱いをしてくれている・・・と思う。(マルカブにあるのは、本当の『デート』でこんな風に気も使えない男と付き合ってくれるな、という親心だが。)
 カリーナが難しい顔をしてストローをくわえているのを見て、マルカブは小さく笑った。カリーナはマルカブを見上げる。
「・・・?どうしたの?」
「いや、そういえば、この街についたとき、お前とアヴィーは買い食いしてたなって思い出した。」
 今みたいにストローくわえてた、とマルカブは言い、カリーナは、ああ、と頷いた。
「・・・うん、そうだ。アヴィーがお礼におごってくれて・・・、市場でいろいろ食べてて・・・。初めて食べたのは、お肉の串焼きだった。」
「買い食いしたこともないお姫様が、今じゃ3段アイスに喜ぶようになっちまうんだからな。」
 カリーナは頬を膨らませた。
「そんなこと言ったら、マルカブだって私の髪飾りを取って行ったじゃない。今なら、そんなこと絶対にしないよ。」
「・・・そのことは悪かったと思ってるよ・・・。」
「それに、アヴィーだって!あの頃のアヴィーはしっかりしてるって思ったんだけど、全然そんなことなかったし!」
「・・・アイツ、段々子どもっぽくなってるよな。」
 マルカブは溜息をつき、指を折って数えながら、
「半年・・・か?この街に来て。まさか、深都なんかあるとは思ってなかったし、【フカビト】だの【魔】だのがいるなんて思ってもなかったし、それと戦うことになるとも思ってなかったんだけどな。どうして、こうなったんだか。」
「そうだね。私も、冒険者のふりをして暗殺者から身を隠そうとしてたのに。・・・まさか、私を殺しにきたリョウガンが自分に仕えたいって言うと思わなかったな。」
「俺は、お前等がバイトするとは思わなかったけどな。」
「だって、マルカブの帽子買いたかったんだもの。ママさんが雇ってくれて良かった。マルカブ、あの帽子、大切にしてね?」
 さすがに今日はその帽子をかぶってはいないが、マルカブは、当然、と頷いた。カリーナはペンダントを握って、
「私は、これを大事にするね。」
「気に入ったんなら嬉しいけど、その服にそれは似合わないと思うぞ。」
「いいの。お守りだから。」
 ずっとつけてる、とカリーナは繰り返した。マルカブは「もっと可愛く作ってやればよかったな。」と頭を掻いた。
「それより、カリーナ。お前、どこか行きたいんじゃないのか?」
「ううん、いいの。一緒に出掛けたかっただけ。・・・ありがとう、マルカブ。お願い、聞いてくれて。」
「こんなの、改まって頼むことか?これからだって、出掛けられる。」
 ・・・最後だからお願いしたんだけどね、とカリーナは心で思いながらジュースをすすった。そんなカリーナにマルカブは気づかずに、
「本当は、もっといろんなところに連れて行ってやりたいんだけどな。折角、船もあるんだし。アーモロードの周りの海だけじゃなくて、別の街の方までさ。町並みも食い物も、アーモロードとはまた違うし、海にいる魚も違う。」
「・・・うん。」
 ・・・お願いだから、言わないで。カリーナは願うのだ。お願いだから。
「さすがに、この状態で探索休んで船を出すわけにもいかないからなあ。」
 本当になんでこんなことになったんだろうな、とマルカブは海を見ながら苦笑する。カリーナはそんなマルカブの顔を見ることは出来なかった。きっと、この人は言ってしまう。優しいからこそ、言ってしまう。一番、言ってほしくないことを、言ってしまう。
「【真祖】のことが、どうにかなったら、」
 ああ、言われてしまう。カリーナは震える唇をぐっと噛んだ。
「そのときは、みんなで遠出でもするか。」
 ――――、『その時』は、私には来ないよ。
 今まで堪えていたものが、急に決壊した。マルカブは、明日も明後日も変わらずに自分と共に居ようとしてくれている、その事実が彼女の壁を突き破った。カリーナはジュースの入ったカップを落として、わっと泣き出した。
 マルカブはぎょっとして、慌ててカリーナの肩を揺する。
「お、おい、どうした、カリーナ・・・。どっか痛むのか?」
 カリーナは首を振る。笑ってお別れするつもりだったのに、結局出来ない。それも全部マルカブの所為だ。今まで気づいてくれなかったマルカブの所為だ。変わらずに優しい彼の所為だ。
「わ、私、・・・私・・・!!」
「ああ、ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、」
「私・・・!国に、帰る、の・・・ッ・・・!」
 カリーナは泣きながらマルカブを見上げた。マルカブは、それこそスハイルが豆鉄砲を食らったみたいな顔をして、カリーナを見つめた。
「・・・え?」
 馬鹿みたいな声で、聞き返す。それが苛立たしくて、カリーナは肩に置かれたマルカブの手を振り払った。
「私、国に帰るの・・・ッ!あと数日したら、迎えが来る!だから、・・・そんな日は、来ない!」
「ちょ・・・、ちょっと待て、なんだよ突然・・・!あと数日って・・・」
 マルカブは、「・・・あと数日?」と繰り返し、カリーナの肩をもう一度掴んだ。
「・・・、どういうことだ!?何、勝手に決めてんだ!?」
「私のことを、私が決めただけだよ!勝手じゃない!」
「何で、何も言わねえんだ!クー爺は知ってんのか!?何で、俺に相談しなかった!?」
「マルカブに相談して、どうなるの!?私の国のこと、何も知らないじゃない!」
「国のことは分かんなくても、お前のことは分かるだろうが!」
「私が・・・、」
 カリーナは拳を握りしめた。
「私が、この3週間、ずっと・・・ずっと、帰ることを考えてたのに、マルカブは気づいてくれなかったじゃない!」
 気づいてくれれば、私はもっと早く泣いて「帰りたくない」って言えたはずなのに!
「私のことが分かるなんて、言わないで!」
「3週間って・・・、」
 マルカブはこの三週間を素早く振り返った。姫と深王に【白亜の供物】を届けた時期だ。カリーナが何となくぼんやりしている、と感じたこともあった。最近、よくいろんな人に会いに行くな、と思ってもいた。何となく、傍にいることが増えているようにも感じた。けど、それを全部、【白亜の供物】を届ける緊張感や、【真祖】の元に向かう前の不安からくるものだろう、と思っていた。・・・思いこんでいた。
「ちょ・・・と、待てよ、カリーナ。お前、一人で・・・たった一人で、全部決めたのか?」
「そうだよ。私のことだもの。」
 カリーナは鼻をすすり上げた。このお姫様は、泣き虫だが年齢以上に自立していることは知っていた。知っていたからこそ、思い切り甘えさせようと思った。そして、知っていたからこそ、もっと注意しておくべきだったのだ!なんでそんな辛い選択を、一人でさせてしまったのか!?
 マルカブが苦痛に顔をゆがめたのを見たカリーナは、無理矢理微笑んだ。この人は、自分のために心を痛めてくれている。・・・それで十分のはずだ。
「・・・今まで、ありがとう、マルカブ。クー・シーも一緒に国に帰ります。・・・ごめんなさい。【真祖】のところに行こうっていうときに、『アルゴー』から私とクー・シーがいなくなるのは良くないことは、分かってる。・・・でも、クー・シーの代わりのモンクは元老院が紹介してくれるって、」
「・・・・・・、そんなことはどうでもいいんだよッ!!!」
 マルカブはカリーナの肩を掴む手に力を込めた。
「・・・・・・、お前、国に帰りたいのか・・・?」
「ううん。私、ここにいたい。マルカブたちと一緒にいたい。」
「だったら!ここにいろ!帰るな!俺も、アヴィーもディスケもスハイルもオリヒメも、お前と一緒にいたいんだ!」
「・・・でも、私が帰らなかったら、・・・私の国は、きっと・・・もっと困ることになる。」
「いいじゃねえかよ!お前の国がどうなろうと!お前は国外追放されてきたんだ!今更、国を守る義理も義務もあるか!?お前の国が、お前に何かしてくれたのか!?今更、帰って苦労することが目に見えてるんじゃないか!?」
「うん。きっと。」
 カリーナは淡々と返事を返す。そのことに、マルカブは絶望した。この娘は、本当にもう、覚悟を決めている。自分が喚いても縋っても、きっと、帰る。
「・・・・・・俺は、」
 マルカブは項垂れて、声を絞りだした。
「・・・お前が幸せになれないような国に、お前を返したくない。」
「・・・・・・ありがとう。」
「帰るなよ、・・・・・・頼むから。」
「・・・ありがとう。」
 カリーナは、いつもマルカブはそうしてくれるように、マルカブの頭を撫でた。そんなことをするな、とマルカブは泣きだしかけた。
「でもね、マルカブ。・・・私は、みんなを幸せを守りたいから、国に帰るの。・・・マルカブが頭を撫でてくれるみたいに、誰かの頭を撫でている人がいるとするでしょう?それが、戦争が起きて、家に帰れなくなって、頭を撫でることが出来なくなったら、寂しいよ。そして、その人が、マルカブやアヴィーの知り合いだったら?そしたら、マルカブ、悲しむでしょう?・・・私、そういうのは嫌なの。放っておけない。マルカブが頭を撫でてくれて嬉しかったのに、他の人の頭を撫でる手が無くなってもいい、だなんて言えないよ。マルカブは私を幸せにしてくれたのに、全然応えてないことになるんだもの。」
「・・・そんなの、応えなくていい。俺が勝手にやったことだ。」
「応えたいの。」
「いいんだよ!お前はガキなんだから、素直に・・・」
 マルカブは顔を上げて、カリーナに言い募ろうとした。泣き顔が見られても、もう構うことはない。そんなことに構っている場合ではない。この娘が幸せになれない場所にいくのなら、それは全力で阻止しないと・・・・・・
 ・・・・・・そんな大人の覚悟は、恋する少女の覚悟に阻まれた。
 マルカブは、自分の頭が後ろから抱き込まれたことに気づく。自分の頭を撫でていたカリーナが、その手を後頭部に滑らせて、そして、彼女自身の方に引き寄せたからだ。カリーナ自身は少し身を乗り出して、
 そして彼の唇に、自分の唇を押し当てた。
「・・・・・・・・・、」
 それは、ほんの一瞬だ。キスも初めてでもない。触れるだけで、雰囲気も色気もない。まして、相手はカリーナだ。・・・いや、しかし、カリーナだからこそ。
 マルカブは明らかに狼狽えた。思わず、カリーナの肩から手を離し、己の唇に触れる程度には、狼狽えた。
「私、ガキじゃないんだよ、マルカブ。」
 カリーナは、立ち上がっていた。
「私はマルカブのことそんな風に好きだから、マルカブがしてくれたことにちゃんと応えたいんだよ。」
 「そんな風に」ってどういう風にだよ、とは、さすがのマルカブも聞けなかった。ガキだガキだ、と言いながら、彼女は欲しがるばかりの子どもではないことも知っていた。自分よりよっぽど、いろんなことを考えて、誰かのことも考えて、己の責任も考える、そんな女性だということも、薄々気づいていた。
 マルカブは、後悔した。もう全てが「後から考えれば」の話だ。気付いていたのに、気付かなかった。気付くべきだったのに、気付かなかった!
 そして、すぐに、また後悔をする。
「さようなら。」
 カリーナの声がして、顔を上げる。彼女はもう、背中を向けて駆けだしていった。
「・・・!待てよ、カリーナ!!」
 マルカブはそれを慌てて追い、追いながら、
 何故、彼女から手を離してしまったのか。そう痛烈に後悔した。


(30章に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------


・・・
・・・・・・
・・・え、あとがき?
ちょっと待って、今、うちの赤パイをグーで殴ってくるからー。


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
お待たせしました。
まあ、ともあれ次回から30章です。
章が変わるので、一週休みをいただきます。
それから30章~第一部最終回まで更新していこうと思います。
なお、30章では、ここに来てまさかのアヴィー視点という構成力のなさを露呈する予定です。


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