まよらなブログ

30章2話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。

ちょっと更新遅くなり、すみません。
三連休で助かりました。(志水は2連休だけど)
今回の話、「パラディンのほん。」を書いたときから、うっすらと構想
があったんですが、いざ書き出すとうまく書けなくて、むーん・・・・・・

それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


30章2話
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 父親が亡くなり、アヴィーがシルンに引き取られて一年ぐらい経った頃だった。シルンにもシルンの家で暮らすことにも慣れ、彼女にも甘えたりわがままを言うこともするようになった頃だと思う。アヴィーが自分の意志を言える程度に、シルンに遠慮がなくなるのを待っていたのかもしれない。学校に行く前に、という考えもシルンにはあったのかもしれない。いずれにせよ、養母は、強引な性格に反していつでも自分の意志を尊重してくれていたとアヴィーは思う。
 私は、このままお前と一緒に暮らしたいのだが、とシルンは6歳だったアヴィーに切り出した。アヴィーはすっかりシルンが一番の人になっていたので、いいよ!と考えなしに頷いた。
 私の子になるか?とシルンは聞き、首を傾げるアヴィーに、もう少し具体的に・・・しかし子どもに養子縁組の話などをしても分からないと判断したらしく、6歳の子どもにとって分かりやすい変化を伝えた。
「私と同じ名前を名乗らないか、ということなのだ、アヴィー。つまり、アヴィオール・ダンベルト、と。」
「へんなの!」
「む・・・、そうか、変か。」
「うん!ぼくの名前は、アヴィオール・イプシンだからね!」
「うむ、そうだな。変わりたくないなら、それでいい。変わってもいい、というときに変えることもできるからな。」
「シルンは、ぼくとおなじ名前がいいの?シルンが、ぼくとおなじ名前になるのはだめ?」
 アヴィーの問いかけに、シルンは苦笑した。シルネリア・イプシンか、と笑うと、アヴィーは少し考えてから
「やっぱり、へん!そのままで、いいよう!」
「そうか。」
「・・・シルンはなんで、おなじ名前がいいの?」
「私と名前が違うことで、・・・お前がもしかしたら悲しい思いをするのではないか、とか考えるのだ。もっとも、お前をいじめるような輩は私が盾の錆にしてしまうから、安心していいぞ!」
「シルン、ケンカはだめだよう!しーるどすまいと、したらダメー!」
「う、うむ。そうだな。それにな、アヴィー。お前の名前はお前の父君と同じだ。」
「うん!」
「・・・それは、お前の父君が祖父君から受け継いできたものだ。ずっとずっと受け継いできたものだ。その繋がりの一番前に、お前がいる。」
「うん。」
「だから、私はその名前を大事にしてほしいと思う。」
「うん!わかった!」
 即答のアヴィーに、シルンは苦笑した。
「本当に分かったのか?」
「わかったよう!ぼくの名前をだいじにするんでしょう?ぼくのおとうさんとおじいちゃんのことも、だいじにするんでしょう?おじいちゃんのおじいちゃんのこともだいじにするんでしょう?」
「うむ、そうだ。アヴィーは賢いな。そして、お前自身のことも大事にするのだぞ。」
 シルンはアヴィーの胸をそっと押さえた。
「ここには、沢山の人が宿っているのだからな。」
「わかった!ぼくの名前は、アヴィオール・イプシンね!」
 アヴィーはにこにこと笑い、シルンにしがみついた。
「ぼく、シルンと名前はいっしょじゃないけど、シルンのこともいっぱいだいじにするよう!だって、ぼく、シルン、だいすきだもん!」
 シルンは電撃に打たれたような顔をした。
「・・・お・・・・・・・・・、うおおおおおおおおお・・・・・・ッ・・・!?なんと愛らしく優しいのだ、アヴィー!私もアヴィーを大事にするぞ!私もアヴィーが大好きだからな!」
 すっかりメロメロになった養母は、アヴィーをぎゅうむ!と抱きしめた。くるしいよう!とアヴィーは腕をばたつかせた。
 
*****

 ―― その名は、繋がりだ。
 そう言われたから、父の姓を名乗っていた。
 そして、だからこそ、エトリアから離れたときに、ミドルネームを勝手に名乗りだしたのだ。名前が繋がりならば、自分を育ててくれた養母とも繋がっていたいと思ったのだ。育ててくれたのがシルンだったから、今の自分がここにいる。もう一つの繋がりの、一番先にいるのも自分。
 アヴィオール・ダンベルト・イプシン。そう名乗るのは長い気もしたので、シルンの姓の頭文字だけ名乗ることにした。エトリアの人たちには言ってない。恥ずかしいからだ。その繋がりの端を持って次に繋げようとしていることを、自分が知っていればいいと思ったし、とても大切なことだったので当のシルン以外に打ち明ける気はなかった。・・・いや、『アルゴー』は別だ。『アルゴー』の仲間たちが由来を聞けば、勿論教える。でも、それぐらい。アヴィー自身が「由来を知っていてほしい」と思う相手がいるとすれば、世界に5人(と一匹)ぐらいなのに。
 ・・・そのどれでもない人が、正しい名前を呼んだ。
 そのことに、アヴィーは怒りすら感じるのだ。真名が魂を支配する、と考える文化もあるようだが、その名を把握されたことに、己の誇りとか矜持といったものに土足で踏み込まれたようにも思うのだ。それは、貴方が呼んで良い名前ではない!
 アヴィーにしては八つ当たりのような内容で怒っていた。アヴィーは女性を追って路地を曲がり、中央に用水路の流れる細い坂道を上がっていく。急勾配の坂道にある用水路は、一気に流れないように段になっているが、ざばざばと音を立てて勢いよく流れていく。
 坂道の上に渡り廊下のような橋がかけられている。用水路を超える橋であり、坂道との立体交差の道でもある。アヴィーはその橋の下、家の灯りが届かない場所に、先ほどの女性がいることに気がついた。
 暗闇に入ることには抵抗があったので、アヴィーは橋の手前で立ち止まった。改めて女性を見る。
 年齢は20代・・・半ばか。巻き毛の金髪を、切りそろえている。暗闇でよく見えないが、菫色の瞳をしているようだ。・・・冒険者だ、多分。佇まいが、いつでも飛び立てる猛禽のようだから。そして、彼女は武器を持っていた。杖のような剣のような。杖の先に刃をつけた、そんな武器を持っていて、その腕にうっすらと紋様が刻まれている。
 その武器にも、腕に刻まれた紋様も見たことがある。ハイ・ラガードに行ったときに、見たことがあった。養母の妹に付き従っている変な老人(彼に比べたらクー・シーは真っ当な老人だ)と、友人の父親で(アヴィーとしては気に入らないことに)養母の恋人のような男性が同じような出で立ちをしていた。彼らは、巫医・・・ドクトルマグスと呼ばれていた。
「・・・おねえさん、巫医なの?」
「ええ、医者です。剣と茨の紋の国の国王の侍医です。」
「・・・それって・・・カリーナのお兄さんのこと・・・?」
 アヴィーは、きっ!と表情を固くして、
「・・・じゃあ、カリーナの迎えって、おねえさんなの?」
「・・・おねえさん、と呼んでもらうのも悪くはないけれど、」
 彼女は杖で、トン!と道を叩いた。
「私はフロレアル・ダンベルトと言います。」
「フロレアルさん!カリーナの居場所を知ってるなら・・・」
 アヴィーはふと、言葉を止めた。
「ダンベルト・・・?」
「アヴィオール・ダンベルト・イプシン。あなたのことは、姉様たちから聞いています。」
「・・・姉様って・・・もしかして・・・。」
 アヴィーはさっきまでの勢いもどこかに行ってしまい、おどおどと問いかけた。
「シルンのこと・・・?」
「シルネリアとヴィオレッタのことです。」
 フロレアルは淡々と告げた。
「貴方のことは昔から、シルネリア大姉様からの手紙で知っています、アヴィオール。まさか、アーモロードでカリーナエ様と同じギルドの仲間になるとは思わなかったけれども。」
 カリーナの名が出てきて、アヴィーは我に返った。立場上の叔母であれ
、カリーナを連れて行っていいはずがない。
「シ・・・シルンが何を書いたかは知らないけど!カリーナのことを教えてよ!フロレアルさんと一緒にいるの!?おじいちゃんも一緒なの!?僕、カリーナが一人で夜の道を歩いてるんじゃないかって心配なんだよ!」
「安心しなさい。カリーナエ様には騎士がついています。クー・シー殿たちも一緒です。」
 フロレアルの返答に、アヴィーはあからさまにほっとした様子を見せた。姫は本当に愛されていたのだ、とフロレアルは思う。
「フロレアルさん、カリーナとおじいちゃんに会わせて。」
「できません。」
「どうして!?」
「カリーナエ様がそれを望まれないからです。」
「嘘だよ!カリーナが僕たちに会いたくないなんて、嘘だ!」
「・・・お会いしてどうするつもり?」
「あ・・・会って、なんで国に帰るのか聞くんだよ・・・!それに、カリーナは帰りたくないかもしれないし・・・」
「帰りたくないそうです。」
 フロレアルのあっさりした暴露に、アヴィーは「え?」と聞き返した。フロレアルは機械のように繰り返した。
「カリーナエ様は国に帰りたくないそうです。」
「だ・・・、だったら!なんで帰るの!?」
 アヴィーの質問に、フロレアルは答えなかった。代わりに、続ける。
「・・・帰りたくないから、あなたたちには会えない、と。」
「・・・・・・、会ったら、帰りたくないって言ってしまうから?」
「ええ。」
「何で!?そう言えばいいのに!それに、カリーナの国って、いろいろ・・・大変なんでしょう!?カリーナが悲しい思いをするような国に、なんでカリーナが帰らなきゃいけないんだよ!」
「それが、役目だから。そう、カリーナエ様はお考えです。」
 アヴィーは噛み合わない・・・というよりもフロレアルに会話を噛み合わせる気がないことに、地団駄を踏んだ。
「それは、あなたたちがお願いしたからだよ!?カリーナは優しいから、お願いされたら断れないもん!(果たしてあの姫が自分たちにも優しいだろうか、とフロレアルは一瞬だけ苦笑を浮かべた。)カリーナのこと、国から追いだして今度は帰ってこいって言うの!?そんなの勝手だ!」
「確かに、状況がカリーナエ様にそう強制したかもしれない。けれど、選んだのはあの方です。」
「・・・だから、それは!」
「―― 己の戦場を見定めた人が、」
 フロレアルがアヴィーを遮って、唐突に告げた。声は相変わらず淡々としていた。だが、どこか他人事な冷静さではなく、有無を言わせまい、とする迫力があった。それ以上は言わせない。そこからは、私の矜持にかけて言わせない。そんな迫力だった。
「己の戦いを完遂できるように護るというのが、ダンベルトの騎士道です。」
 アヴィーは理屈ではなく理解した。その騎士道を背負う覚悟がないのなら、その名を名乗ってくれるな!フロレアルは、そう、怒りを抱いている。
「・・・シルンも、そうなの?」」
「だからこそ、大姉様はエトリアに残りました。あの町で戦ってきた人の意志を継ぐために。あの町で正しく戦おうとしている人々が、己の戦い以外のことで煩わされることがないように。あなたもその一人です、アヴィオール。姉は、父が亡くなった事実を受け止めようと戦う幼子を、放っておける人ではない。」
 シルンの名前が出てきて狼狽をしながらも、アヴィーは必死に本筋を見誤らないようにする。カリーナに会う。それをなんとしても達成しなければならない。
「フ・・・フロレアルさんが言いたいのは、カリーナが自分の・・・目標?・・・とか・・・やるべきことを見つけたのなら、それを邪魔してはいけないってこと?」
「・・・概ね、は。」
 アヴィーは、ぐっと拳を握りしめた。
「確かに、シルンのおかげで僕は救われたよ。だから、シルンの騎士道を否定なんかしない。でも・・・、僕はカリーナに悲しい思いをしてほしくないんだよ!カリーナは、僕らと一緒にいたいんでしょう!その願いを叶えるのも、騎士ではないの!?」
「そうかもしれません。」
「だったら、どうして会わせてくれないんだよ!?フロレアルさんはまるで、・・・カリーナが苦しんでもいいみたいだ!まるで、使命があるなら苦しんでも仕方ないって言ってるみたいだ!そんなの・・・まるで生け贄じゃないか!なんで平気でいられるの!?」
「・・・・・・っ私だって!」
 フロレアルは、弾かれたように叫んだ。八重歯が見えた。
「セイリアス様に苦しんでほしくないのに!!」
 どうして、その名が出てきたのか、アヴィーにはまったく分からなかったが、しかし自分が二度目の・・・しかも大きな地雷を踏んだことは理解した。フロレアルは泣いていた。
「平気でいられる?冗談じゃない!私だって、あの方から一分だって離れたくないの!今だって、カリーナエ様を放り出して国に帰ってしまいたい!でも、それは出来ないの!セイリアス様の、覚悟を放り出すことになるから!」
 やりたくもない使命を果たそうとしているのは、この目の前の女性もそうらしい。フロレアルは、しゃくりあげた。
「命を削って・・・使命を果たそうとするセイリアス様を・・・どうやったら止められるの・・・!生きて、傍にいさせてほしいのに・・・絶対に止まらない・・・!私がセイリアス様に出来なかったことを、あなたたちがカリーナエ様に出来るというの・・・!?」
 他人のことで苦しんでいる人に、とても酷いことを言ってしまった。そう、アヴィーは後悔した。
「苦しんでほしくないのに、止まらないなら・・・!せめて、その使命を完遂してもらえるよう・・・力を貸すしかない・・・!せめて、一緒に背負うしかなかった!子どもが生意気な口を聞くんじゃないの!」
 フロレアルが瞼を拭いながら、アヴィーを睨みつけた。アヴィーは「ごめんなさい。」と呟いてから、
「・・・・・・カリーナも・・・・・・・・・止まらないの?」
「・・・止めてほしいなら、あなたたちに相談している。そういう方でしょう。」
 フロレアルの一言は的を得ていた。少なくともマルカブに相談していると思う。マルカブの前で泣いてから、皆で「帰らないためにはどうするか」を考える。
「・・・あなた方が引き留めることを知っているからこそ、・・・その手を振り払うのが何よりも辛いからこそ、」
「・・・それ以上、言わないで!」
 アヴィーは思わず、遮った。フロレアルは押し黙った。
 カリーナは帰ると決めたのだ。だからこそ、引き留められることを避けたのだ。その手を振り払う苦しさに比べたら、別れの挨拶をする悲しさや帰りたくない国に帰る辛さなど、きっと些細なことなのだ。
 相談もせず、挨拶もない。それが彼女の覚悟の証。
「・・・・・・僕は、」
 アヴィーは石畳の道を見つめて、
「・・・どうしたら、いいの?」
「・・・・・・知りません。」
 アヴィーは顔を上げた。
「じゃあ、フロレアルさんは、どうしてほしかったの?」
「私に聞くの?」
「だって、じゃあ、なんで、フロレアルさんは僕に会いに来たの?カリーナを放っておいてほしいなら、僕に会う必要はないでしょう?」
「・・・・・・、」
 フロレアルは首を振った。
「・・・あなたたちは別れて終わり。私は・・・ずっとあの兄妹の苦しみを見続ける。あなたたちは、都合のいい想像もできる。私は現実を見ていくしかない。・・・、理不尽よ。」
 それだけです、とフロレアルは呟いた。アヴィーは、その場に立ち尽くした。静かになった路地に、ざばざばと用水路の水音が再び響きだした。




(30章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

30章にタイトルがあるのなら「“D”の騎士道」だと決めていました。
フロレアルが想いが強すぎて嫌な女になっちゃってますが、
「誰か一人の前でだけ聖女であればいい」と割り切ってる女性は書いていて楽しい。


途中にアヴィーが思い出してる、巫医の爺ちゃんと男性はドク爺とドク男です。
二人とも、すでに話題に上がっている人物として登場済みです。
ドク爺はプロローグ3話で女性剣士(ヴィオレッタ)が言っている「うちの爺」、
ドク男は「そのころのエトリア」で登場しているフレドリカの「お父さん」です。
なお、「パラディンのほん。(井藤さんとの合同誌)」に登場してますが、
まあ、あの本は読まなくても別に問題はないようには書いてます。


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