まよらなブログ

30章5話。

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


カウントダウンが、0になった日の話です。
実は、一日ズレている気がしていますが、
気のせいであることを祈っています。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


30章5話
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 カリーナがフロレアルと約束をした『帰国』の日。


 街に、朝が始まっていく。港に漁を終えた船が着き、市場に人が集まり、競りが始まる。通りのパン屋がパンを焼きはじめ、通りに人の姿も見られ出した。
 結局、マルカブは、仮眠をとった後に夜通しでカリーナを探し続けた。その間、宿には一度も帰らなかった。アヴィーと、あの話の続きをするのは嫌だった。答えなど出ず、カリーナが決して帰ってこないだろうことだけを、再確認するだけの話の続きをするのは、嫌だった。
 ・・・・・・夜通しでカリーナを探した理由が、そんな自分勝手な理由であることに、マルカブは愕然としつつ、白く強い朝日の差し込む道を歩く。
 「甘えていない?」と、アヴィーの声が耳の奥で響くのだ。甘えている、今もなお。甘えはするが聞き分けのいい子どもたちと、茶化しはするが決して自分を責めないディスケに、今もなお、甘えている。自分があの話をしたくない、という理由で、一晩アヴィーを放っていいはずがない。カリーナを探すと言って、逃げ出すような真似をしていいはずがない。
 ・・・帰るべきだ、とマルカブは宿に向かう道を選ぶ。もう、きっとカリーナは見つからない。口にこそしないが確信もしていて、彼は顔を伏せて歩く。周囲など見ていない。
「あ、マルカブさんだー。」
 不意に、そんな声が掛けられても、マルカブはすぐに顔を上げられなかった。ワンテンポ遅れて、顔を上げ、声のした方を振り返った。長い金髪を緩い三つ編みに束ねた主婦が、にこやかに手を振った。
「・・・マリアさん。・・・朝、早いな。」
「朝市に用があって、ドルチェをフェイデンに任せて出てきちゃった。でも、マルカブさんに会えて良かったわ。用なんかどうでもよくなるぐらいね。」
「・・・マリアさんでなければ、口説かれてると思う言葉だな。」
「カリーナちゃんだったら、ドキドキしたのかしらね。」
 マリアの踏み込みは突然だ。マルカブは抗議するように鼻を鳴らした・・・が、「言いたいことがあるなら、言葉にするべきだわ。」とマリアははっきりと告げた。マルカブは不機嫌そうに言葉にした。
「何が、言いたいんだ。」
「ハッキリ言っていいみたいだから、聞くわね。あなた、何でこんなところにいるの?」
 マリアはマルカブを見上げ、
「カリーナちゃんが国に帰るって言った。だから、探している。でも、さっきまでのマルカブさん、探している動作はしていなかったわ。それに、闇雲に探す時期はもう過ぎたんじゃないの?カリーナちゃんの出航は、今日の11時の予定だそうよ。」
「・・・・・・なんだって?」
「今日の、11時。出航の予定だって。クーおじいさんがディスケさんに、伝えたと、サビクくんが言っていたわよ。」
 マリアはまるで耳の遠い老人に言い聞かせるように、言葉をやたらと区切った。
「・・・何考えてんだ、クー爺は。」
「クーおじいさんは、あなたたちにカリーナちゃんに会いに来てほしいから言ったに決まってるじゃない。私からすれば、あなたこそ何を考えているのか問いつめたいわね。私に会わなかったら、今日の11時出航だと、クーおじいさんがわざわざ伝えてくれたことも、サビクくんたちがカリーナちゃんの船の航路を示した地図をあなたに見せたがっていることも、あなたは知らないままだった。それで良かったの?サビク君とジルちゃんは、ずっとあなたが帰ってくるのを待っていたのに。」
「・・・どういうことだよ。」
「港のおじいさんが、カリーナちゃんが乗っている船の航路を教えてくれたみたい。でも、船乗りじゃないとはっきりしたことは分からないから、マルカブさんに聞こうと思って、あの子たちずっとあなたを待っていたのよ。でも、帰ってこないから、ディスケさんにウチに帰されたの。海図は宿に置いてきたって。」
 らしくないんじゃないの、とマリアは腰に手を当てた。母親が子どもを叱る仕草そのものだ。マルカブは、海図、と呟いた。それだけだった。マルカブはすぐに宿へと駆けだして、駆けながら礼を言い、サビクとアル・ジルにも礼を言ってくれ、と言い、フェードアウトするように去っていく・・・と思っていたマリアは、あからさまに眉を寄せた後、彼の胸ぐらを掴んだ。
「どうしたの、マルカブさん。クーおじいさんとカリーナちゃんが待ってるのよ?私に胸ぐらを掴まれている暇があるの?」
「待っている・・・のか?」
「待っていないという証拠はあるの?」
 ねえよ、とマルカブは呟いた後、
「待っているという証拠もないけどな。」
 マリアは不愉快・・・というよりも不快だとばかりに眉を寄せ、胸ぐらからも手を離す。
「カリーナちゃんが、本当に帰りたいわけないでしょう?それを一番分かっているのはあなただと、そう思っていたのは、私の思いこみなの?」
「そうだよ、カリーナは、帰りたいとは思っていない。でも、帰ると決めている。・・・その決意を、ひっくり返せるとは思えない。」
「・・・残念だけど、」
 マリアは静かに頷いた。
「私もそう思うわ。」
「・・・だったら、会うことに意味があるのか?」
「あなた、カリーナちゃんが自分の言うことを聞いてくれなかったら、会うことに意味がないとでも言うの?」
 そうじゃない、とマルカブは首を振ったが、もしかしたらそうなのかもしれない、とも思う。帰らせない、今の自分はその一点だけで、カリーナを探している。それなのに、分かっている。カリーナは、それでも帰る。
 マリアは、マルカブの微かな動揺を目敏く見つけた。
「・・・お別れを、したくないの?」
「・・・したいヤツがいるか?」
「・・・そうね。バカバカしい質問をしてしまったわ。ごめんなさい。でも・・・、どんな人とも、お別れをしないでいられると思っているの?」
 死ぬときは、独りよ。とマリアは冷たく言い放った。そうだな、とマルカブは上の空で返事をした。
「・・・でも、お別れを独りでするのは、寂しいわ。」
 続いて聞こえた言葉は、微かに暖かかった。
「・・・お別れは、二人以上でするものよ。さようならを交わすのは悲しいけれど、独りで『さようなら』を言うのはもっと寂しいわ。『さようなら』を言えないことは、もっと悲しいわ。」
 マリアの最後の一言が、マルカブの心の奥にずしり、と響いた。家族に「さよなら」を言えず、恩人には「さよなら」を言え、『ガーネット』には「さようなら」を未だに言えないままの、彼の奥にずしりと響く。言えないままで、ふらふらと。足場のない感覚は、確かに、寂しかった。・・・その寂しさが、今もう一つ、増えようとしている。
 ・・・しかし、そんなことよりも。その寂しさが一つ、増えることよりも。
「カリーナちゃんは、『さよなら』を言う勇気もある子よ。でも、あの子一人に、『さよなら』の重さを背負わせるの?」
 ・・・そう。カリーナに、あの寂しさを感じさせてしまうことの方が、辛いのだ。あの子にこの寂しさを感じさせてしまうなら。
 マルカブが拳を握った。マリアは微かに微笑んだ。もう大丈夫だと、微笑んだ。
「幕引きを、女の子に任せちゃダメよ。」
 マルカブとカリーナとアヴィーが出会った当初から、三人のことを知っているマリアは言った。
「三人の思い出には、三人で幕を引くの。それは悲しいことだけど、・・・孤独ではないわ。」
 マルカブの中で、何かがパチン!と嵌る。彼は、宿へと駆けだしていた。
「ありがとな、マリアさん!」
 マリアが最初に想像した通り、マルカブは走り出しながら礼を言った。
「サビクとアル・ジルにも礼を言ってくれ!」
 そう言う声すらフェードアウトさせて、マルカブは走り去っていく。っマリアは、はいはい、と返事をしながら手を振って、
「カリーナちゃんによろしくねー!」
 別れの挨拶に向かうマルカブを、そう見送った。


*****


 宿に戻ったマルカブは、テーブルに置かれた海図を見付け、その上に置かれたメモを見た。サビクが海図を持ってきた経緯を書いた文章の上に、ディスケの字で『おとーさんのバカ!帰ってこいよ!』と殴り書きされている。マルカブは窓を開けて、空の様子と地図を交互に数分見てから、ディスケの文字の上にさらに文字を重ねた。そして、海図上の一点を丸で囲む。
「・・・マルカブ、」
 アヴィーの声が、背中にした。
「良かった・・・、帰ってきたんだ。」
「おう。心配かけたな。」
「あのね、マルカブ。僕、考えたんだ。・・・カリーナを止めることは出来なくても、僕はカリーナに『帰ってほしくない』て言わないといけないんじゃないかって。」
 マルカブはアヴィーを振り返った。アヴィーは目を腫らしていた。
「だって、僕は帰ってほしくないんだもの。カリーナが帰らなきゃって思っているのと同じぐらい、僕は帰ってほしくないって思ってるんだよ。だから、カリーナが帰るとしても、帰ってほしくないって言うのは、僕の気持ちを伝えるだけだよ。それでも、カリーナが帰るって言うんなら・・・、」
 哀しいけどしょうがないんだよ、とアヴィーは消えるように囁いた。だが、すぐに顔を上げ、
「それでも、僕の気持ちは言うべきなんだ。それはきっと、僕がカリーナのことを大事な仲間だって思ってるって伝えることだから。伝われば、カリーナが寂しい思いで国に帰る気持ちも、少しだけ和らぐだろうから。」
「・・・そうだな。」
 マルカブは頷いて、
「カリーナに会う方法が一つ、見つかった。」
「ほ、本当!?」
「おう。行こう。」
 そう言って、マルカブは頭に帽子を載せた。カリーナとアヴィーがバイトをして買ってくれた帽子を載せたあとに、カリーナが置いていった髪飾りを手に取った。この髪飾りはこんなに重かっただろうか、とマルカブは考える。初めて出会ったときに、礼の代わりに巻き上げた髪飾り。あのときは、軽かった。カリーナは、国の秘宝だとか、嵌っている宝石は星が落ちたときに出来た石だとか言っていた。そんな価値を知ったから、重く感じているわけではない。この重さは、彼女と過ごした時間の重さ。
 ・・・・・・国の秘宝を置いていくなよ、バカ。
 マルカブは心の中でカリーナを叱りながら、愛しささえも感じるのだ。国にあるべきものを、ここに置いていくその行為こそ、彼女の未練だ。マルカブに最初に渡したものを、置いていくその行為こそ、あの子の未練だ。自分が残れないのなら、せめて国にあるべきもう一つのものを、自分の代わりに置いていく。彼女の国にとっては大損失な無責任な行為だが、マルカブには、少女らしいいじらしさだとしか思えない。
 未練があるのは、もう仕方がない。それを解消する術は、もう無い。だが、これはカリーナの『未練』であることを、誰にも理解されないのは孤独だろう。ならば、自分たちは知っている、とあの子に伝えに行くべきなのだ。自分たちはお前に帰ってほしくない。そして、お前がどれだけの覚悟でもって国に帰ると言ったのか、もしかしたら理解は出来ないのかもしれない。
 しかし、自分たちはその覚悟の重さを感じている。覚悟をした辛さも知っている。受け入れたくない選択を選んだ苦しさを想像している。辛い選択をそれでも選ぶお前の誇り高さを、愛している。だからこそ、「帰ってほしくない」自分たちは、「帰りたくない」お前と同じだけの苦しさを共有している。そう、伝えにいくべきなのだ。・・・それこそが、
「カリーナを独りにしないために。」
 マルカブのその一言も彼の覚悟だった。アヴィーはぐっと、唇をへの字に曲げた。覚悟を決めた一言に、軽々しく返事をしてはいけない。アヴィーはぎゅっと目を閉じて、頷くことが重くて仕方がない、というように顎を上げ、それでも、それでも、
「――、うん!」
 力強く頷いた。
 

 
(31章に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------
 
31章のタイトルは「さよならを言う勇気」だと思ってますが、
フライング気味に、マリアさんが言いました。
次からの31章で、第一部が完結します。長かった・・・。


カリーナの髪飾りの宝石は、
テクタイト(隕石衝突で出来た天然ガラス。有名なところではモルダバイト)の一種です。
天然ガラスですが、細かい分析をする技術がないため、
鑑定をするとガラス玉という扱いをされることもあるようです。
それで、一章で「ガラス玉に銀メッキ」だと鑑定されているのです・・・
・・・という設定が当初からあったんですが、もう書く機会がないのでここで暴露しておきます。
このために、宝石・鉱石関係の本を買って読んだのに、私は何をしているのだろうか。

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