まよらなブログ

31章1話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


今回から31章です。第一部の最終章になります。

当初は、この章で終了にするつもりだったんですが、
「折角だし、1~3の世界観を繋げよう~。」と野心を出した結果、
第二部に続くことになりました。
今では、「折角だし、4と新世界樹の世界観も繋げよう~」と思ってます。
シリーズが重なるごとに最終回が遠のいておる。(笑)



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。




31章1話
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 宿の『アルゴー』の部屋に、海図が置かれたままになっている。
 その海図に描かれた丸を見た者は、意図を把握して行動に移りだした。
 ディスケは弩を担ぎ、サビクとアル・ジルとコロネを連れて街の南西側に向かった。オリヒメとシェリアクは、警備隊の指揮に当たっているだろうクジュラを探し始めた。スハイルは、花を探すことにした。エラキスは、『ファクト』の少女たちを港へ連れて行くことにした。エラキスから、丸の意図を聞いたミモザは、父にそれを伝えに走った。
 そして、ミアプラキドゥス号では、帆が張られた。


 11時を告げる鐘が鳴った。


 部屋には誰もおらず、海図がある。海図の上に、一枚のメモがある。それを見て、意図を把握した者が、これから取る行動を書き加えていったメモだ。「さようなら」を言うために、もしくは「さようなら」を言わせるために、・・・本意でない別れがせめて正しくあるように、それぞれがこれから取るべき行動を書き記し、次に見るだろう人に伝えていったメモだ。
 メモに多数の人間の字が踊っているのを見て、海図に丸を付けたマルカブが泣く様に笑うのは、数時間後の話だ。


***** 


 船は、予告された時刻通りに、港を出た。
「・・・おー・・・」
 晴天かつ波のない絶好の航海日和な風景を眺めながら、クー・シーは無感動に声を上げた。
 船は、アーモロードのある島の輪郭をなぞるようにして南下していく。島から遠くない距離で航海を始めた小型船は、商船を装っていた。その前方と後方に、同じような船がいる。交易品を載せた商船の警備用の船・・・を装った海都警備隊の船だ。
 海流と藻海のあるアーモロードの南側に向かっているのは、航路をごまかすためだ。30分前に、同じような船が港を出て、剣と茨の紋の国へもっとも短い航路である北に向かっている。その船こそ、フェイクであり、囮だった。
 クー・シーは、「実はこの船が囮で、カリーナは30分前に出航した船に乗っているのでは」と疑ったが、先ほど船室でぼんやりしているカリーナを確認したので、それはない。囮の船には騎士たちが乗り、来るか来ないか分からない刺客を待っているのだろう。
 刺客が『来る』可能性は低いだろうが、カリーナが国に帰ることを良しとしない考えの者は少なくはない。その中で、彼女をこの海に沈めてしまおうと考える者もいないとは限らない。たとえば、保守派貴族の最後の残党、敵対関係にある隣国人、カリーナの祖父に恨みのある被差別部族の一味、変化しない国に怒る人、変化を恐れる人。命を狙われるまでの事件になるかは別にして、これから彼女を取り巻く者たちからは不穏な空気しか漂っていない。そして誰も彼も・・・というよりも国そのものが崖っぷちだったため、凶行に出やすい状態だ。
 とはいえ、彼女をこの遙か南の海に沈めてしまおうと考えても、実行できるような財力と人脈と行動力を持っている人物は、剣と茨の紋の国にはほぼいない。まして、海運国でもないあの国の人物が、海を暗殺の舞台に選ぶことはないだろう。また、二重スパイの使用と戦争への道筋を引いていたことが発覚したばかりの隣国は、剣と茨の紋の国に対して慎重にならざるえない。囮の船は、幸福なことに囮の役目を負わないままで任務を果たすに違いない。
 そして、本当にカリーナが乗っているこの船は、わざわざ島の南の航路をとった。島の南側は海流と藻海による天然の漁場で、漁師の船は多い。しかし、航路として進むには骨の折れる難所でもあり、剣と茨の紋の国に帰るにも遠回りでもある。この航路は(存在するか分からない)刺客をごまかすための航路でもあり、(存在するかもしれない)刺客が追ってきても天然の罠にはめるための航路でもあった。なにせ、この船の護衛はアーモロードの警備隊だ。島の周りの航路について、もっともよく分かっている人間たちの船だ。追ってきた船を、藻海に撒くことも海流に誘導することも、容易いことだろう。
 風と波とカモメの音の他に、甲板の板が軋む音がした。
「セイリアス様がご帰国されたときは、この航路ではなかった、と聞いております。」
 クー・シーの背中に声がかかった。クー・シーは振り返らずに頷いた。
「セイリアスのときは、北へ一直線だった。」
「ならば、景色も異なることでしょう。」
「それはわしに対する気遣いだろうか、フロレアル殿?」
 クー・シーは振り返り、自嘲しながら、
「二度も、帰りたくもない国に帰らざるえない子たちと、一緒に行くしかないわしに対する気遣いだろうか?」
 二度も同じ景色を見せないための気遣いだろうか?というクー・シーの問いかけに、フロレアルはあっさりと首を振った。
「いいえ。私が気遣いをみせるとしたら、セイリアス様お一人です。多数の人間を気遣えるほど、器用ではありませんので。」
「・・・そうかね。」
 クー・シーは批判も非難もせず、鼻を鳴らした。
「セイリアスは、貴女を見つけたわけだ。アーモロードでピックを、故国で貴女を。朴念仁のくせにね。」
「・・・対比されるのは愉快な話ではありませんが、そうなるのでしょう。」
「姫は、誰かを見つけるのだろうかね?」
「知りません。」
 フロレアルは冷たく返事をし、海を見た。クー・シーも海を見て、話を戻す。航路の話だ。
「・・・万が一を考えて、この航路を取ったのなら、正しい選択だと思う。」
「ありがとうございます。」
「だが・・・、万が一がありそうなのかね?」
「無いことを祈ります。」
 フロレアルの受け答えは、とにかくそっけない。クー・シーは、確かに、と頷くのみだ。
「・・・、」
 フロレアルは周囲に人がいないことを確認してから、
「隣国の王子が、」
「む?」
「出航した、という話を聞いております。」
「・・・どこに向かって?」
「この話の流れで、問題となる場所は一つのみです。」
「・・・この海都に向かって?」
「おそらくは。」
 クー・シーは髭をひねった。
「・・・なぜ?」
「分かりません。カリーナエ様のご帰国と関係があるのかも、分かりません。ですが、念には念をいれます。万が一など無いことを祈りますが、万が一が起きる可能性を叩き潰すことも仕事です。」
「・・・叩き潰す、ね。」
 クー・シーは軽く拍手さえもして、
「姉弟の中、一人だけ、剣を取らない道を選んだと思っていたが、やはり貴女はダンベルト団長のご息女だ。障害は切り捨てるのではなく、叩き潰す。盾をも武器にする騎士の血筋であろうよ。」
「誉められていると思っておきましょう。」
「誉めておるよ?ダンベルト団長が、剣すらとれぬ戦いの中、それでも血路を拓こうと持っていた盾で戦った結果、騎士団秘伝のシールドスマイトが生まれるのだから。それは諦めなかった結果だね。わし、そういうの好きだよ。」
「あなたに好きだと言われても、父は喜びはしないでしょうが、お礼申し上げます。」
「わし、ダンベルト家の方には嫌われてるなあ。なんでだろ?おたくの執事殿よりは、よっぽど真っ当なおじいちゃんなはずなのに。それに、立場的上は孫になるアヴィーには、好かれてると思うんだけど。」
 フロレアルは視線だけで、質問した。気づいていたのか?と。クー・シーは頷いて、
「アヴィーの養母が姫の国の騎士で、名前がシルンだよ?セイリアスは、フィデリオの件から、彼の恋人だったシルネリア嬢のことも気に掛けていた。わしも貴女の姉君のことは、何となく知っている。武勲のためにエトリアに向かったことも、その樹海を踏破したこともだ。そして、エトリアに留まっており、姉たちが帰ってこない結果、貴女とアウグスト殿が居たくもない国に居る。」
「・・・、確かに我が国は誉められるような国でもありません。争いと不自由ばかりです。・・・そう長くも持たないでしょうし、それを惜しむような国でもありません。」
 ですが、とフロレアルは続ける。
「私は、父やアウグストやセイリアス様の力になりたいので、我が国に居たくないわけではありません。」
「・・・、なるほど。」
「・・・共にいたい人と、共にいられる限り、そう不幸でもありません。」
「・・・では、姫は不幸だと言うわけだ。」
「・・・では、大姉様も不幸だと言うわけですか?」
「貴女がふっかけてきた話だと思うのだがね?」
「共にいられないことは不幸でしょう。ですが、不幸で終わるかは、その人次第です。大姉様は、少なくとも、自分を不幸だとは思っていませんでしょうから。」
「では、セイリアスも不幸ではないわけか。好きな女の子を亡くし、継ぎたくない王位も継いで、体まで壊して、・・・それでも貴女を共にいる相手に選んでいる。」
「セイリアス様にそう思っていただけるなら光栄です。そして、カリーナエ様が、幸福だと思える何かを見つけられれば、と思います。」
 フロレアルは一息ついた。溜息のようだった。
「貴方はどうなのでしょうか?」
「・・・わしも、セイリアスと姫の力になりたいと思っているよ?でも、アーモロードで楽しくやりたかったな。ベクもいるし、『アルゴー』もいい子たちばっかりだし、ツィーも残ってくれたら最高だったんだが。・・・だから、半分幸せで、半分不幸だよ。」
「半分の不幸せが埋まることをお祈りしております。」
「・・・それはどうも。」
 そう言いながら、クー・シーは海を見た。フロレアルはぼんやりと、海・・・というよりも、世界樹を抱く島を見つつ問いかける。
「・・・追ってくるのを、待っているのですか。」
「・・・誰が?」
「勿論、あなたの仲間たちが。」
 クー・シーは肩を竦めただけだった。フロレアルはそれを見て、やっぱり肩を竦めた。
「・・・追ってきても、追いつくような航路ではないと思いますが。」
「そうかな?海流と藻海まで、まだ距離もある。この時点で、追いかけてきたら、・・・追いつくかもよ?」
「こちらには、アーモロードの警備隊のご助力もあります。それに、船の速度もこちらが上。海流と藻海に妨害されるまでなら、・・・つまり、単純な海の走行であれば、むしろこの船に適う相手はおりません。」
「そうかね?」
「ええ。」
 クー・シーは、そうかね?ともう一度聞きながら髭を撫で、
「それは心強いことだ。確かに、この船の速度は早い。前後を護る護衛艇が、こうも距離を一定に保っていられるのは、それこそ彼らの航海技術のなせる技だろうね。我らのミアプラキドゥス号を、うちのおとーさんが操ったとしても、単純な船の性能によって、追いつくのは難しいかもしれない。」
 だがね、とクー・シーはフロレアルを振り返った。背中にアーモロードを背負うようにして、振り返った。
「船なんて風がなければ簡単に進めなくなるってことを、知っている男がいれば、また別の話じゃないかね?」
 クー・シーの肩越しに見えるアーモロードの島で、チカリと、何かが光った。遠くから聞こえるパアン!という乾いた音と共に、光は一度大きく輝いた。
「・・・!狙撃!?」
 島からの狙撃だと、フロレアルは認識した。クー・シーは島を振り返ることもなく、
「アーモロード軍のものじゃない。ただの冒険者の弩の狙撃だよ。大目に見てやって。」
 と、笑う。陽光に輝く光は、金属の反射だ。昼に向けて強くなっていく太陽と、その光を受けて輝く海の、二つの光源を反射させる矢。遠くまで飛ばすために軽量化とバランスだけを考えた、武器としての威力を無視した鋭い矢がまっすぐに船に迫る。飛んでくる弓矢が立てる笛のような音を、クー・シーは背後に聞きながら振り返りはしなかった。矢の形状なんか知っている。それがどう作られたかも知っている。月まで飛ばすための試作品の一つだ。探索のない日に、削りだしているのを何度も見てきた。制作しているところをアヴィーと一緒に見学して、ちょっかいを出しては叱られた。多くの試作品の中から、一番飛ぶ矢を選んでいるだろうことも、分かっている。月にいくために作った矢を、船を止めるために撃ち出してくれることも知っている。それが、カリーナに直接「さようなら」を言えない役目を選んだ彼の、カリーナに対する手向けだということも分かっている!
 クー・シーの頭上を、光と音をまとって矢は飛んでいき、帆を突き破った。膨らんだ帆が破れる、軽い破裂音がした。
「・・・!」
「船は風を受けられなかったら、進まないものだって、」
 クー・シーは島を振り返った。どこかで、大きく手を振っているだろう射手を思いながら、
「さすがに地元っ子はよく分かってるよ。」
 そう笑うのだ。穴が空き、風を受けられずにぺしゃんこになった帆を見上げ、船員たちがざわめいている。島からの攻撃か、とざわめく船員と騎士たちをフロレアルが叱責する。
「落ち着きなさい!帆を張り直すように!これは、アーモロードの攻撃ではない!ただの・・・」
「ただの、わしらの『おにーさん』からの、姫への『さようなら。元気で。』の挨拶だよー。」
 クー・シーがひらひらと手を振り、フロレアルはただ溜息をつくだけだ。


(31章2話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

第一部最終章が始まりました。
途中で話にでてくる「隣国の王子の出航」は、第二部に繋がります。

31章は5人の話にしようと思って、各話で視点が異なります。
これはクー爺ちゃんの話のはずなのに、フロレアルの話になってしまって失敗だ。
次回は援護射撃を行ったディスケ側視点の話ですが、
一緒にいるコロネの話になりそうな気がしなくもない。

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