まよらなブログ

31章2話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


ただいま31章です。第一部の最終章になります。
計画通りでいけば、年内に第一部終了します。



それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



31章2話
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 朝市も捜索して、宿に戻ってきたディスケはテーブルの上の海図に、丸が描かれていることに気が付いた。そして、自分のグチのようなメモの上に、マルカブの字で「ここでカリーナと会う」と書いてあることにも気が付いた。その下に、「さよならを言いにいく。」と添えられていることも
気が付いた。
 ディスケはその「さよならを言いに行く。」の下に、「じゃあ、この地点で船を止める。任せろー」と書き添えた。
 そうして、弩を取りに、家まで走っていくことにした。


*****


 11時の鐘が、街の方から響いている。
 街からの南西側。道こそあるが、人工の建造物はない森の外れ。海に面した崖の上に、ディスケとコロネ、アル・ジルとサビク、それにスハイルがいた。
「ねえ、ディスケ。」
 弩の準備をしているディスケを手伝いながら、コロネが柄にもなく心配そうに尋ねた。
「・・・、これって結構ヤバいんじゃない?」
 カリーナちゃんの船に向かって狙撃するってことでしょ?とコロネは思案して、
「アーモロードからの攻撃だと思われなければいいけど。」
「ま、そのときはその時だ。カリーナと爺さんが、事情を話せば何とかなるだろ。あの海図を見た誰かが気を回して、クジュラに事情を説明しに行ってるよ、多分。」
「事情が分かっても、ヤバいことになると思うけどなあ?」
「めんどくさいよなあ。」
 ただ、カリーナにお別れを言いたいだけなのに、とディスケは苦笑した。スハイルが「ぴーーー!」と首を振る。スハイルの傍にいたアル・ジルが、スハイルを抱き上げた。
「・・・スハイルは、お別れしたくないって。」
 アル・ジルがスハイルの気持ちを代弁する。代弁されるまでもなかった。ディスケは、ゆるく首を振った。
「みんな、そう思ってるんだ、スハイル。」
「ぴー?」
「でも、お別れは言わないと。」
「・・・・・・ぴーーー!!」
 スハイルはイヤイヤと首を振り、アル・ジルの手を振り払ってその場から飛び去ってしまった。アル・ジルはそれを追おうとして、ディスケに呼び止められた。
「スハイルの好きにさせてやってよ。」
「・・・うん・・・。」
「それよりアル・ジル、・・・ごめんな。アル・ジルも、カリーナにお別れを言いたいよな。」
「マルカブさんが、アル・ジルちゃんたちもミアプラキドゥス号に乗せてくれればよかったのにね。」
 コロネの言葉に、アル・ジルは「いいの。」と首を振った。
「わたしたちのことを誘ってる時間もないだろうから。それに、マルカブとアヴィーはカリーナの特別なの。わたし、カリーナにお別れを言う人は二人が一番いいと思う。」
 でも、と、彼女はディスケを見つめ、
「ディスケこそ、カリーナにお別れを言いたかったんじゃないの?」
「まあ、アル・ジルが言いたかったのと同じくらいには。」
「ディスケはいいの?カリーナにお別れを言わなくても。」
 ディスケは笑った。
「俺も、マルカブとアヴィーがカリーナに『さよなら』を言えれば、それが一番だと思ってる。」
 それに、とディスケは海を見つめ、
「きっと、俺が撃ったってカリーナは気が付くよ。そうしたら、おにーさんに感謝するぞ、アイツ。さすがディスケは気が利くねってさー。」
「カリーナは、ディスケにも会いたかったって悲しくなると思うよ。」
 アル・ジルが唇を尖らせた。自分の友人はそんなに薄情ものではない、と主張している。ディスケは、そうだなーと笑った。笑ってから、息を吐き、改めてアル・ジルを見つめた。
「・・・カリーナと仲良くしてくれて、ありがとな。」
 ディスケの一言に、アル・ジルは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑い返した。
「・・・ディスケはやっぱり、カリーナとアヴィーのお兄さんなんだね。」
「そうなんだよー。おとーさんが頼りにならないから、おにーさんが頑張っちゃうんだよー。」
「ううん、ディスケはマルカブのことも頼りにしてるんだよ。だって、カリーナがこれ以上悲しくならないためのお別れを、マルカブはしてくれるって信じてるから、ここにいるんでしょう?」
 アル・ジルの一言に、ディスケは一瞬きょとんとして・・・、すぐには笑い返せなかった。面食らった顔をしているディスケを余所に、アル・ジルは望遠鏡をのぞいて海を見ているサビクのもとに走っていった。
「アル・ジルちゃんはお見通しだあ。」
 コロネがゲラゲラと笑い、ディスケは頭を掻いた。
「勘がいいからなあ。」
 ディスケはそう言いながら、矢を取り出した。コロネはそれをじっと見つめ、
「月に行く研究は進んでいる?」
「深都の技術のおかげで、この矢も相当飛ぶようになったよ。でも、月まではこの世界を一周するより距離があるんだってさ。深都に残ってる古代の文献に、そう書いてあるんだと。だから、弩じゃあ、月には届かないんだって。」
「・・・ふうん。じゃあ、どうするの?」
「それでも、飛ばすしかないだろ?俺が使える道具はこれだけだし、深都の技術でも今の時点ではこれ以上は出来ないんだ。・・・なんか北西の方に、空を飛ぶ船を作る技術のある国があるって言い伝えもあるらしいけど、まずはその国までの航路を拓いてもらわないとなあ。」
 ディスケはそう言いながら、矢を軽く撫で、
「・・・ごめん。」
「ディスケ、あたしに謝ることしたの?・・・まさか、浮気とか!?あたし、一回ぐらい修羅場ってもんをやってみたいと思ってたんだ~!」
「俺は、修羅場ってもんに絶対に遭遇したくないと思ってるんだ~。そうじゃなくて、この矢。」
「うん?」
「今、俺が持ってる矢の中で、一番飛ぶ。それこそ、そんなに遠くない船を狙撃するのは勿体ないぐらいにさ。」
「うん。」
「・・・でも、ここで使うよ。」
「うん。」
「・・・月を目指すためじゃなくて、カリーナの船を止めるためにさ。」
「・・・つまりさ、あたしとの賭けじゃなくて、カリーナちゃんを・・・『アルゴー』を選ぶって言いたいんだ?」
 これは一種の修羅場かなあ、とコロネは笑った。
「神妙ぶることないでしょ、ディスケ。これを逃したら、・・・カリーナちゃんに二度と会えない、・・・かもしれない。確実で・・・そして、ディスケが今持ってる一番いいものを、カリーナちゃんに送ってあげたいんでしょう?」
「・・・・・・、うん。」
「矢ならまた作れるじゃん?だったら、どっちを取るなんて、そんなのカンタンな話。」
「・・・、それもそうだな~。また作ろうっと!」
「次はもっと飛ぶ矢を作る、ぐらい言ってみせなさいよ、バカディスケー。ホント、土壇場で気が利かないんだからー。」
「悪い悪い!ありがとな。」
「はい、どういたしまして。」
 それで、二人は会話を終わらせた。コロネは、気なんか遣わなくてもいいのに、と心の中でむくれる。気を遣われたことが嫌なのではない。気の遣いどころが間違っているのだ。賭けの勝敗に関わらず、嫁にぐらいなるつもりなのに。賭けよりもたった一言の申し込みをするべきだ、と、彼はとっとと気付けばいい。月に辿りついてないとか冒険者をやっていたら先のことが分からないとか、そんなことは言い訳にすぎないと、とっと気付くべきなのだ。この話を突き詰めていくと、自分に意気地がないのをカリーナの所為にすることになると、早く気付くべきなのだ。
 けれど、とコロネはバレないように溜息をついた。
(あたしだって、まあ、ディスケの所為にしてるんだけどさ。)
 たった一言の申し込みを男がするべきだ、などとはコロネは考えていない。(とはいえ、仮に彼女の方から結婚を申し込んだら、ディスケは笑いながらも落ち込むことは分かっているので、待つべきだとは思っている。)だから、結局、ただの意気地なし同士だ。
 とはいえ、そんな話を今、すべきでないことは分かっている。今、彼がするべきことはカリーナの船を止めることだ。だから、それ以上の話はしない。それはディスケへの気遣いというよりも、ちゃんと自分で決めた少女への気遣いだ。
(・・・泣いていた子が強くなったな。)
 出会ったばかりのころ、カリーナがひどく落ち込んで宿に帰ってきたことがあった。そのまま寝てしまった彼女の枕元で、様子を見ていたこともある。起きた彼女はぽろぽろ泣き出した。今のカリーナも、ぽろぽろと涙をこぼすこともあるだろう。けれど、泣いた後に自分できっと立ち上がる。
 コロネは、一息ついてから長い髪を後ろに払った。髪が揺れて彼女の背中に垂れたときには、コロネは気持ちを切り替える。そして、望遠鏡を覗くサビクのところに行く。
 サビクとアル・ジルは、海に面した崖ギリギリのところに立っていた。サビクが望遠鏡を向けている先こそ、マルカブが海図に丸をつけた場所だった。
「・・・さて、ホントにここに来るのかな?」
 コロネが苦笑しながら近づくと、サビクの隣にいたアル・ジルが振り返った。
「来るよ。」
「・・・そうだね。」
「うん。・・・ねえ、サビク。きっと来るよね。」
 来る、と言いながらも不安なアル・ジルは、サビクの腕を軽く引いた。サビクは望遠鏡を下ろしたが海を見たままで、頷いた。だが、「来るよ。」とは言わなかった。期待を否定する真似はしないが、希望だけを口にする気もないらしい。
 サビクは一瞬考えてから、
「あの海図が、ヒントになったら嬉しいけど。」
 と、呟いた。
「十分、ヒントになってるよ!あたし、海図は分かんないから、よく分かんないけど!」
 コロネがサビクの背中を叩いて、笑う。サビクは少し困ったような顔でコロネを見上げてから、小さな声で囁いた。
「・・・マルカブとディスケは、恩人なんです。」
「・・・・・・お?」
「二人がフェイデンさんを紹介してくれなかったら、おれたちはスリを続けてた。・・・スリよりもっとヒドいことをしていたかもしれないし、アル・ジルに辛い思いをさせたかもしれない。」
 だから、あの海図がマルカブの力になっていたら嬉しいんです、と囁くサビクと、それに神妙な顔で頷くアル・ジルと、そんなサビクの囁きが聞こえず作業を続けているディスケを、コロネは順繰り眺めてから、
「・・・君たちはホントにいい子だなあ!!」
 サビクとコロネをまとめて抱きしめた。それから、わしわし!と二人の頭を撫でると、サビクは耳を赤くして慌て、アル・ジルはにこにこと笑みを浮かべた。
「いい子な君たちと、いい子なカリーナちゃんだもん!船はきっと、来るぞ!」
 コロネはそう断言して、二人を離し、港の方向を見る。アル・ジルがその視線を追い、
「・・・・・・、何かが、動いてるのが見えるよ。」
 と、海を指す。サビクは素早く望遠鏡を構えて、
「・・・船が、・・・・・・2・・・、3船。商船みたいだけど・・・」
 商船?とコロネは聞き返し、ディスケを見る。ディスケは頷き、弩に矢を装填した。
「それだ。」
「そうなの?」
 アル・ジルが聞き返すと、ディスケは弩に取り付けた望遠鏡(スコープ代わりなのだろう)を覗き込みつつ、頷く。
「爺さんが、商船を装ってるって言ってた。それに、島のこっち側に来る船は、ほとんどが漁船だからさ。」
「島に戻される海流と藻海があるから、交易船がこっち側のルートを使うこと少ないんだよ。」
 ディスケとコロネの地元民らしい解説に、アル・ジルは納得し、少しずつ大きくなっていく海上の黒い点を凝視した。船は順調にスピードを出しており、あっという間に三隻の船が目視出来る距離まで近づいてきた。
「・・・!クーじいさんがいる!」
 望遠鏡を覗いていたサビクが声を出した。ディスケは弩の引き金に手を掛けて、三人に退いているように言った。
 ディスケは、片目でスコープ代わりのレンズを、片目で海上を器用に見た。彼が覗いているレンズの中に船の帆が入ってくるのを待つ。あの大きな帆のどこかに、穴を空ければ目的は達成する。難しいことではない。
 ・・・けれど、引き金は重かった。
 今更、引き金を引きたくないなあ、などと考えてしまう自分に、ディスケは苦笑を浮かべた。引き金を引かなければ、船は通り過ぎてしまう。カリーナともそれっきりだ。でも、引き金を引くという行為は・・・、彼にとって「さよなら」を言うことなのだ。
(・・・・・・、そう、「さよなら」だ。)
 ―― 元気で ―― 今までありがとう ―― どうか幸せに ―― 本当は帰ってほしくない ―― 会えて良かった ―― 忘れない ――
 伝えたいことはあるようで、思いつく言葉はひどく陳腐だった。そして、どれも正確ではないように思えた。そんな言葉で言い表せるわけもない。
 レンズの中に帆が見えた。ディスケは唇を堅く結ぶ。声も息も出ない中、心の中で叫ぶように囁くように、
(さようなら。大好きだよ。)
 引き金を引いた。

 想いを乗せた矢は、真っ直ぐに飛んだ。


 矢は帆を破り、風を受けられなくなった船は徐々に減速する。
「・・・これで、よし。」
 ディスケは止まった船を見ながら、息を吐く。
「やったあ!さすが、ディスケだね!」
 アル・ジルがぴょんぴょんと跳ねて、コロネとハイタッチをする。サビクは止まった船の後方に望遠鏡を向けた。その望遠鏡に、
「ぴぴーぴーーーー!!!」
 甲高い声でカリーナを呼んで海上を飛んでいく、仔サイミンフクロウの姿が見えた。
「・・・スハイル!?」
 サビクの声を聞いて、ディスケは弩のスコープを取り外し望遠鏡のように覗く。スハイルが一生懸命飛んでいる姿が見えた。なぜか、花を何輪も足の爪で抱え持っている。
「・・・、爺さんがいるから平気だと思うけど・・・、魔物が襲ってきたと思われたらマズいな・・・。」
 万が一のことを考えて、ディスケは弩をもう一度構え直そうとした。待って、とサビクが鋭く告げる。
「・・・あれ、ミアプラキドゥス号じゃないか・・・?」
 サビクが望遠鏡を向ける先に、黒い点が見えた。


(31章3話に続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

ディスケも体育館裏に呼び出さねばならないような気がしています。


空を飛ぶ船を作る技術のある国、はタルシスか帝国を指しています。
世界樹4への繋がり・・・と見せかけて、「その国までの航路を拓いてもらう」が第二部への布石です。

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