まよらなブログ

31章5話。


「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話です。


本日で第一部・終了です。
さらばプリ子、な話です。


それでは、興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。



31章5話
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 船は、海の上で停泊している。
 それを眺めながら、島にいるディスケはゆっくりと煙を吐き出した。アル・ジルとサビクが望遠鏡を覗きながら、船の上で起こってることを実況している。
 帆の張り替え作業が進む中、カリーナは泣きながらも笑って、マルカブとアヴィー、それにスハイルを話している。アル・ジルとサビクの実況から、その様子を思い浮かべて、ディスケは微笑んだ。何はともあれ、自分を除く『アルゴー』は無事に別れを告げることが出来たらしい。
「ディスケ、良かったの?」
 コロネが隣に座って、今更尋ねてきた。ディスケは煙草を口から外し、
「俺と、カリーナと爺さんの仲をナメんじゃねえぞー?挨拶に行かなくても、分かってるよ。」
「そりゃあ、そうだろうけど。」
 コロネはそう呟いただけで、それ以上は言わなかった。ディスケは煙草を咥え直した。旨いなあ、と思いながら紫煙を吸う。
 その耳に、何人かの足音が聞こえる。
「・・・ああ、いました。」
 声は、オリヒメのものだった。その背後に、シェリアクと、シェリアクに支えられるような形でベクルックス、それから呑気な様子のフェイデンがいる。
「あっれー。面白い面子で来たなー。」
 ディスケが笑うと、オリヒメは溜息をつき、
「クジュラ殿に事情を説明してきました。アーモロードから、剣と茨の紋の国所属の船へ弩の発射があったとしても・・・、また、ミアプラキドゥス号が船に近づくことがあったとしても・・・」
「あったとしても?」
「衛兵及び警備隊員は見なかったことにせよ、という通達を出してくださいました。」
 だから海上の二隻の船は動きません、とオリヒメは顎で海上を指す。ディスケは声を出して笑った。
「わっはっは!そんな無茶な命令出してくれちゃったんだ!?」
「元老院からのカリーナへの餞別だそうです。シェリアクさんも元老院に掛け合ってくださったおかげです。お礼をなさってください。」
「ありがとなー、シェリアク。あとで、おとーさんが奢るよー。」
 ディスケがシェリアクに手を振ると、覚えておこう、とシェリアクは苦笑した。マルカブが奢るんだなあ、とフェイデンが呟いた。
「フェイデンさん!カリーナを見送りにきてくれたの!?」
 アル・ジルが跳ねながら、フェイデンに駆け寄る。フェイデンは頷きつつ、
「そうだぞー。マリアとドルチェの分も頑張って見送るぞー!」
「そうだね!頑張ろうね!」」
 おー!と拳を上げるフェイデンとアル・ジルを流しつつ、ディスケはベクルックスに視線を向けた。その視線に気がついたフェイデンが、
「いやー、ベクと港で会ってなー。この場所まで連れて行けって頼まれたんだよな。まあ、途中でベクがヘバっちゃったんだけど、ちょうどオリヒメたちに会えて、シェリアクさんに背負ってもらえて助かったなあ。なあ、ベク?」
「・・・余計なことを言うな・・・!」
 ベクルックスはフェイデンを睨み、懐から細い望遠鏡を取り出しつつ海の方へと歩み出た。その背中にディスケが声をかける。
「アヴィーは、先生も爺さんを見送りたいだろうってことを気にしてたんだけど・・・、声をかけ忘れてました。」
「・・・ミモザが教えてくれた。・・・まあ、エラキスさんに気を回してもらったのだが。」
 ベクルックスは望遠鏡をのぞき込む。(星読みとして、携帯用の望遠鏡は持ち歩いているのだろう。)同じように望遠鏡を覗いているサビクが、あ、と声を上げた。
「もう一船、来るけど・・・」
「ああ、それは我々の船だ。」
 エラキスが操ってるはずだ、とシェリアクが海を見て言う。
「ミラたちが、ツィーにお別れをするために。」
「だったら、先生も船に乗せてもらえば良かったのにー。」
 ディスケが苦笑すると、ベクルックスは振り返らずに首を振る。
「・・・あの船は『ファクト』のもので、私がクー・シーに会うための船ではない。ミモザが友人に別れを告げられれば、それでいい。・・・・・・・・・、ああ、いたな、あの馬鹿。私にぐらい、出航の時間を教えてもいいだろうに。」
 甲板のクー・シーを見つけたらしいベクルックスは、一人呟いた。フェイデンは、小型の双眼鏡をディスケに差し出した。
「使う?」
「・・・何で持ってんだ?」
「ほら、僕も冒険者だったし。いざと言うときのために。」
 と、嘯くフェイデンだが、独自でカリーナを探してくれていたのだろう。ディスケは双眼鏡を受け取り、
「ありがとな。あとで、うちのおとーさんが奢るよー。」
「島に戻ってきたら、マルカブはどれだけ金を払うことになるんだろうな?」
 フェイデンは苦笑をし、今度は手鏡を取り出した。
「・・・・・・何で持ってるんですか?」
 今度はオリヒメが聞くと、
「身だしなみのためだぞ。僕は、ドルチェとマリアのためにいつでもカッコいいパパでいたいんだあ。」
 と嘯いて、高くなっていく太陽の光を、手鏡を通して海上へと向けた。

******

「ツィー。」
 リョウガンが不意に呼んだ。にこにこしながらカリーナの背を眺めていたツィーは、リョウガンを見上げる。リョウガンは船の後方を見つつ、
「他人事ではないようだ。」
 と、だけ述べた。ツィーは不審げに眉を寄せ、後方を見やり、
 ・・・・・・一隻の小型船が飛沫を立てて、近づいてくるのに気がついた。
 ツィーは、エラキスの名を呼んで甲板後方に駆けていく。カリーナとクー・シーはツィーの行く方向を見て、そしてツィーを追ってやってきた船に気づいて、笑った。
「よかった・・・!ツィーも、『ファクト』に会える・・・!」
「いやはや、おじいちゃまも挨拶しに行かねば。」
 ツィーが大きく両手を振って船を出迎えようとしている姿と、遠くから聞こえるミラの怒声を聞いて、クー・シーは髭を撫でる。リョウガンがすっとクー・シーの隣に歩み寄り、
「島から、光で信号が出ているようだ。確かめた方がいいのでは?」
 と提案した。後部甲板からツィーが泣きながら礼を言う声が聞こえている中で、クー・シーは、うむ?と首をひねりつつ、リョウガンが差し出した望遠鏡を取って光源に向けた。
「・・・・・・お、」
 短く、一声漏らして、
「姫、あちらをご覧ください。」
 今度はクー・シーが望遠鏡をカリーナに渡す。カリーナは望遠鏡を島に向け、
「・・・・・・・・・、あ・・・!」
 今度は彼女が声を漏らした。
 アヴィーとマルカブが島を振り返り、スハイルが「ぴぴぴー!」と飛び上がる。それだけで、ディスケがいる場所をカリーナは見ていることを、マルカブとアヴィーは悟った。スハイルはぴよーーん!と嬉しそうに鳴いてから、
「ぴぴーぴ!ぴぴぴ、ぴよぴよ!?」
「うん・・・!うん!ディスケもいるね!」
「ぴよ!ぴよえ、ぴう・ぴう、ぴぴう、ぴよぴよ!」
「うん!コロネさんもアル・ジルもサビクもいる!オリヒメもシェリアクさんもフェイデンさんもいるよ!・・・・・・あ、」
 カリーナは、クー・シーに望遠鏡を返した。
「クー・シー!見て!」
「いえ、姫がお使いください。」
「ううん!クー・シーじゃなきゃダメだよ!ベクルックスさんがいる!」
 その名前に、クー・シーは慌てて望遠鏡を受け取った。(カリーナには船乗りから新しい望遠鏡が差し出された。)クー・シーはレンズの中に、望遠鏡を覗いているかつての仲間の姿を見つける。相手も、クー・シーが自分を見たことに気がついたらしく、望遠鏡を一度外した。その表情が、25年前の見送りの際の顔と同じだったので、クー・シーも望遠鏡を外して瞼を拭ってから、何度でも見送りに来てくれる仲間に深々と礼をした。
「・・・勢ぞろいじゃねえか。」
 マルカブが苦笑し、
「ぴよーーーん!!」」
 スハイルが嬉しそうに鳴き、
「良かったねえ!カリーナ!おじいちゃん!」
 アヴィーが笑顔で身を乗り出す。
 カリーナは望遠鏡を覗きながら、
「・・・・・・・・・、うん・・・!!」
 大きく頷いた。

*****

「!ディスケ、カリーナが気がついたよ!」
 アル・ジルがディスケを振り返る。マジで!?とディスケは前に出た。フェイデンから借りた双眼鏡を使うと、カリーナは確かにこちらを望遠鏡で見ており、片手を大きく振って見せた。
「カリーナちゃーーん!元気でねーーー!」
「カリーナあああ!!わたしのこと、忘れないでねーーーー!!」
 コロネとアル・ジルがブンブン手を振って、聞こえないだろうが、叫ぶ。サビクはオリヒメに望遠鏡を貸した。オリヒメは礼を言って、それを受け取りカリーナを見る。彼女は船縁を掴んで身を乗り出し、何かを必死に叫んでいる。聞こえなくとも分かる。一人一人の名前を叫んでいる。そして瞼を拭い、最後に何か一言叫んだ。
 何を言ったの?と誰かが問いかけるよりも早く、
「おうよ!カリーナ!」
 ディスケが拳を振り上げた。
「こちらこそ、ありがとな!」
 そのカリーナの後方で、帆の張り替えが終了した。

*****

 帆の張り替えが終了したことを、フロレアルは淡々とカリーナに告げた。カリーナは頷いてから、ミアプラキドゥス号の二人と一匹を見て、それから島にいるディスケたちの方を見て、『ファクト』の船の方を見て、もう一度マルカブとアヴィーを見た。
「・・・もう、行くね。」
「・・・・・・おう。」
「・・・・・・うん。」
「ぴーー・・・」
「今まで、ありがとう。私、本当に楽しかった。」
 出航を告げる声が響く。後方甲板からも、ツィーが『ファクト』に別れを告げる声が聞こえた。
「・・・マルカブ、私、このペンダント、ずっと大事にするね。・・・だから、帽子、大事にしてね。」
「当たり前だ。墓まで持って行くぞ。」
「アヴィー、流星群、一緒に見られなくてごめんね・・・。でも、私、絶対にその日に空を見るから。アヴィーと同じ空を見るから。」
「うん・・・!僕も、カリーナが見てるって思いながら見るよう・・・!」
「スハイル、私のこと守ろうとしてくれてありがとう。みんなに、あんまりわがまま言ったらダメだよ?」
「ぴー・・・!」
 カリーナは続ける言葉を探した。アヴィーは唇をへの字に曲げて震わせているが、もう泣き出さなかった。マルカブは肩にとまっているスハイルを撫でてやりながら、もう取り乱さなかった。
 この人たちに、何を言ったら、私の気持ちが伝わるのだろう?
 どんな言葉も、きっと足りない。そして、どれも正確ではない。
 けれど、きっともう決まっているのだ。何度も何度も繰り返してきた言葉だが、もう一度言うべきなのだ。伝える必要もない、そんな一言かもしれない。彼らは、それを知っている。だからこそ、幸せであったのだ。でも、やはり、これしかないとも思うのだ。
 船はゆっくり動き出した。カリーナは船の動きに反するように、船の後方へと移動する。ギリギリまで、一緒にいようと移動する。アヴィーが、待って、と言おうとしたが唇を噛みしめた。スハイルは飛んで追おうとしたが、マルカブがそれを許さなかった。
 船の最後部で、カリーナはツィーと並んだ。ミアプラキドゥス号から、ゆっくりと離れていく。大切な二人から、ゆっくりと確実に離れていく。
「マルカブ!」
 カリーナは身を乗り出した。
「アヴィー!」
 腹の底から、声を絞り出す。
「スハイル!」
 気持ちを伝えたい相手の名前を呼ぶ。
「ディスケ!」」
 だから、この場にいない仲間の名前も呼ぶ。
 カリーナは顔を上げた。ひゅう、という音を立てて息を吸う。腹の底まで息を吸う。そして、島まで届けと、彼らの心に突き刺されと、爆発するように叫んだ。
「―――ッ大好き!!」
 何度も繰り返した言葉を叫ぶ。言う必要もないほど伝わっている気持ちを叫ぶ。それでも届けと叫ぶ。そこに感謝も謝罪も後悔も希望も決意も乗せて叫ぶ。
 その言葉は、もう、カリーナそのものだった。
 アヴィーとマルカブとスハイルも身を乗り出した。
「「「僕も/俺も/ぴぴ/ だよ!!」」」
 一斉に返ってきた返事に、クー・シーが吹き出し、カリーナは泣いて笑った。
「ありがとう!大好き!!」
 カリーナは大きく手を振った。
 大切なものが見えなくなるまで、振り続けた。


*****


 船が見えなくなるまで甲板に立っていたマルカブに、おおーい、と声が掛けられた。
「マルカブ、私たちは戻るわね。」
 エラキスが自分たちの船を方向転換させつつ、ミアプラキドゥス号に並べる。ミラとミモザとディアデムが、鼻を啜りながら帆を動かすのを手伝っている。
「おう。・・・お前たちもツィーに会えてよかったな。」
「ええ。あの海図に丸をつけたのはあなた?そして、ここで船を止めたのはディスケ?」
「ああ。・・・ディスケにも礼を言わないとだな。」
「お礼を言わないといけない相手は、ディスケだけじゃないと思うわよ?」
 エラキスは、帰ったらメモを見てみなさいね、と言い、弧を描くようにして船を方向転換させた。記憶がないくせに操舵の腕は変わってねえな、とマルカブは頭を掻いてから、
「・・・アヴィー、スハイル。俺たちも帰るぞ。」
 船の先頭に立ち、海を見つめているアヴィーと船首にとまっているスハイルに声を掛けた。
「・・・ねえ、マルカブ・・・」
 アヴィーが振り返らずに、
「・・・僕・・・・・・・・・寂しいよ・・・っ・・・!」
 そう声を絞り出す。マルカブは溜息を吐き、アヴィーの隣まで歩いていき、
「俺もだよ。」
 そう言って、アヴィーの頭をわしわしと撫でた。
 ・・・・・・撫でながら、海を見る。そして、考える。
 海は360度、確かにどこにでも行ける。けれど、自分の道を決めた彼女と、道を重ねることはできない。もう頭も撫でてやれない。けれど、あの子は自分たちのためにもこれから戦っていくのだ。だったら、自分は彼女に何をしてやれるだろう?
 ―― どこにいても迎えにいくし、どこにだって連れて行ってやる ――
 その約束を嘘にしないために、自分の出来ることを考えなくては。
 16歳の少女の決意を見て、大人のはずの彼は、今更そんなことを考えていた。



(第二部へ続く)

---------------あとがきのようなもの-------------------

第一部終了です。長い自分との戦いでした・・・。
でも、二部に向けての戦いはこれからだ!

カリーナたちはこれにて退場です。第二部には欠片も出ません。
・・・・・・が、カリーナの決断が、その後のアヴィーとマルカブの人生に影響を与えていき、
結果、志水の世界樹5が始まります。4じゃないよ、5だよ。
5は発売どころか発表もされてないけど。

さて、第二部ですが、2月最初の日曜(付近)から更新を開始したいと思います。
一ヶ月間はお休みをもらって、いろいろと準備させてください。
1月中は、ゲスト原稿した小話を一つアップします。
このタイミングでしか書けない赤モン子の話っていうのがあったりするので、
余力があれば、小ネタをアップするかもしれません。

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