まよらなブログ

番外編 「Fluctuat nec mergitur」

「世界樹カンケーねえ!」な「世界樹の迷宮Ⅲ」妄想話

・・・ですが、今日は、番外編となります。
2011年頒布の井藤さんの本に書かせてもらった話です。
(本は完売したそうです。詳細はこちら。→ 『まんねんろう・オフライン』
「眼鏡バリとファラ子」本だと聞いたので、
うちの眼鏡バリと、実は存在しているうちのファラ子の話を書かせてもらいました。


進路に迷う中高校生ぐらいに読んでもらいたいなーと思って書いてました。
(個人的に読んでほしいと思ってる個人がいるんですが、まあ読まれてないだろう。)
「海賊王におれはなる!」と宣言することだけが、
一生懸命夢を追ってる証明になるわけでもないんだよ、と。


では興味のある方は「つづきを表示」からどうぞ。


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【登場人物】

プレセペ: ショートボブの重騎士。16歳。冒険者ではない。
青年  : 眼鏡をかけた射手。『アルゴー』というギルド所属の冒険者

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 自分の道を決めた友人が羨ましかった。
 自分はいつまで経っても、何を目指すか決められない。好きなことや得意なことを選べばいい、と人は言う。ゆっくりでいい、と叔母は言う。そんな余裕ないはずなのに。いつまでも叔母の負担になりたくなかった。
 ・・・自分の得意なことは、父から教わった槍術と護身術。そしてこの街には【世界樹の迷宮】がある。冒険者として生きてみる、それも無謀なことではないと思った。だから、父の形見の槍と倉庫に眠っていた鎧を出して樹海にやってきた。突拍子もない選択かもしれないが、少なくとも叔母の負担にはなることは避けられる。それに、ただ机の前で悩んでいるのも嫌だった。考えていても決まらないのなら、先に冒険者になってしまえ。
 ・・・だって得意なことを選べばいいんでしょう?
 そんなことを考えて鎧を着た少女は、緑の樹海をひた走る。横手に滝の流れる道をひた走る。細かい水飛沫が虹を作る美しい道だったが、それに見惚れる場合ではなかった。彼女の背後にはオオヤマネコがいた。鎧を着込んだ少女と身軽な山猫の距離はどんどん縮まっていく。少女の背後で風が起きた。少女は反射的に槍を構えて振り返る。そして、飛びかかってきた山猫の前足を槍の柄で受け止めた。しばらくギチギチと押し合うが、山猫が体ごと伸び上がるようにしてその槍を弾き飛ばした。
 槍は円を描いて飛んでいく。どこに飛んでいったかは少女が確認することが出来ない。目の前の山猫から目を逸らすわけにいかない。
 山猫は彼女の肌が露わになっている部位を的確に狙ってきた。牙を彼女の喉笛に向けて真っ直ぐに――、
 その牙の軌道は、滝の水飛沫を割るようにして飛ぶ真っ直ぐな弾道によって消え失せた。その速度は水飛沫をさらに細かくし、少女の上に降り注がせる。一直線の威力と速度は、山猫が彼女を仕留める結果を塗り換えた。山猫は、どこからか飛んできた矢弾に撃たれ、通路の先へと吹き飛んだ。
 少女は息を吐き、へたり、と座り込んだ。山猫は通路の見えない場所まで吹き飛んだし、あの威力にやられては戻ってくることもないだろう。
 やっと山猫以外のものに意識を向けられるようになった少女の耳に滝の音が聞こえ、そしてその滝の音の向こう側から「おーーーい!」という暢気な男の声を聞いた。
 少女は顔を上げ、滝の向こう側に目を凝らす。緑と赤の華やかなコントラスト。光るように落ちてくる水の集まり。その向こうに、手を降っている男性が見えた。
「無事かーーーー!?」
 男性の姿はよく見えない。近い、とは言えない距離だからだ。だが、彼が巨大な装置を構えていることは分かった。そしてこの街で生まれ育った彼女は、それが弩と呼ばれるものであることも分かった。
 ・・・あそこから狙撃をしたの・・・?
 少女は考えられるたった一つの可能性を信じられないでいた。滝の流れる建造物と樹海の木々のせいで、見通しがいいとはいえない場所だ。矢弾が飛んできた空間も広さがあるとは言えない。それでもそこを貫くように矢弾が飛んできた、ということは、滝の向こうにいる男はかなりの射撃の腕を持っている、ということだ。
「無事かーーー!」
 と、男の声。少女は無事であることを示そうと、立ち上がろうとしてふらつき、ぺたりと地に座る。槍で体を支えようと思ったが、槍はどこかへ飛んでいったことを思い出す。座り込んだ少女の様子を見て、
「今、そっち行くから、そこで休んでろーーー!!」
 と男が言い、彼は弩をかつぎ上げて駆けだした。
 少女は溜め息をつき、周囲を見回す。槍を探して、きょろきょろと見回すうちに、滝に光が当たって虹がかかっていることに気がついた。・・・今日は晴れているんだ。そんなことに今更気がついた。
 少女はざあざあと落ちてくる滝をぼんやりと見上げ、それからざあざあと落ちていく奈落をぼうっと見下ろした。暗い底に身を震わせる。そして、深呼吸してもう一度滝を見上げた。木々も少ないその場所では、涼しい風が注いでくる。滝に洗われた空気は澄んでいた。今になって、彼女は自分が汗をかいていること、皮膚の表面が疾走と緊張のせいで火照っていることに気がつくのだ。
 少女が滝を見上げながら、樹海の静かな空間にぼんやりと座っていると、ざくざくと土を踏む音と「いたいた!」という男の声がした。少女が振り返ると、長身で眼鏡をかけた男性が人懐っこそうな笑顔でやってくる。右肩には弩を担ぎ上げ、左手には槍を持っている。少女の槍だ。
「無事みたいだなー。大怪我もしてなさそうで何より何より。」
 よかったよかった、と彼は笑った。少女はお礼をしようとしたが、それよりも先に彼が滝の前までやってきて屈み、はい、と槍を少女に差し出した。
「これ、キミのだろ?」
「は、はい。ありがとうございます。」
 少女は槍を受け取り、ほっと息をついて槍を抱きしめるように持った。
「大事なものみたいだな。拾ってきてよかった!」
 と、青年は晴れやかに笑った。少女はその笑顔に少し警戒心を解いて、滝の向こう側、青年が狙撃・・・したかもしれない場所を見る。
「・・・あの、あそこから、弩を撃ったんですか?」
「あっはっはっは!見た見た?俺の精密射撃!いやー、山猫と戦ってる女の子がいるんだもん。おにーさんとしては『こりゃ、助けなきゃ!』ってさ!」
「・・・すごい。」
「お嬢ちゃんこそすげえな!鎧着てあれだけ動けるんだからさ!その槍も鎧も年季入ってるみたいだけど、実はベテラン冒険者?重騎士(ファランクス)みたいだけど。」
「まだ一階の地図も出来てないので冒険者ではありません。・・・槍は、父の形見です。」
「・・・あ、もしかして聞いちゃいけないことだったかな。」
「いえ。・・・父が亡くなったのも随分前ですから。」
 少女はそう呟き、しばらく沈黙が下りる。青年は遠慮がちに、
「もしかして、お父さんが冒険者でその意志を継いで、とか?」
「いえ。父は警備隊員でした。私が、樹海に来たのは・・・」
 と少女は言いかけて、ふと気がついた。言葉に出来るような理由が、何もないことに。答えなくては、と少女は焦り出す。答えなくては。自分に何もないことが、知られてしまう。少女は理由を探して、言葉を絞り出した。
「・・・叔母が私を育ててくれているんですが・・・いつまでも叔母に甘えていられません。私の出来ることは槍術ぐらいですから・・・冒険者になって一人立ちしようかと思いました。」
「叔母さん、反対しなかった?」
「・・・言ってません。反対するに決まっています。・・・あなたには時間があるんだからゆっくり考えて決めなさい、と言うに決まっています。ですが・・・」
 少女は槍を抱きしめて、
「・・・考えても、私は何も決められないんです。」
「まあ、そんな年頃だよな。」
「・・・友達は何をしたいか、何になるかを決めています。」
「・・・早く決めても後悔すると思うんだけどね、俺としては。」
 青年は滝を見ながら自嘲気味に苦笑した。そして少女へ視線を移し、少女の名前を尋ねた。
「・・・私はプレセペといいます。」
「そう、プレセペちゃんね。わははは、かわいい名前だなー。」
「・・・人の名前を聞いて笑うなんて失礼だと思います。」
「そうだな、悪かったよ。それでさ。プレセペちゃん。冒険者になるっていうのはちょっと突拍子ないんじゃない?焦ることないだろ?叔母さんがなんて言ってるか知らないけど、進学して考えるって方法もあるんじゃないかな?」
 青年の言葉に、少女・・・プレセペは眉を寄せた。それこそ叔母に提案されていることだった。
「・・・・・・、叔母もそう言います。」
「なんだ。じゃあ叔母さんに甘えときなよ。青少年に猶予があるってことはいいことだよ。」
「・・・、そんな時間はないんです!」
 プレセペは思わず立ち上がり、青年を見下ろした。
「叔母が私を育てるだけでも大変なことなんです!それなのに、進学を勧めます!今すぐ自分の将来を決めることはないのだと言って!私は・・・、何も決められない私のために叔母が苦労するのは耐えられません!」
「・・・キミは叔母さんが好きなんだ。だからこそ、目的もなく進学することに罪悪感も感じてる。そういうこと?」
「・・・そうです。」
「・・・・・・、じゃあ、俺はキミに冒険者になることを諦めさせないといけないな。」
「どうして!?」
 プレセペは叫んで、青年は静かに答える。
「キミは冒険することを選んだんじゃない。逃げてきただけだから。」
 そんなんじゃ樹海でだって逃げるに決まっているんだよ、と青年は静かに言った。プレセペは胸に手を当てて、小声で反論した。
「・・・逃げて、なんかいません。」
「いいや。逃げていますよ。お嬢ちゃん。」
 狼狽えた様子を見せたプレセペに、青年は苦笑を浮かべ立ち上がる。背の高い青年の影がプレセペに落ちて、彼女は思わず後ずさった。
「叔母さんに楽をさせたい気持ちは本当だろう。でも、もしキミに目的があるならば、叔母さんに助けてもらいながら進学する。違うか?」
 プレセペは答えられなかった。青年は「今のキミは迷いたくないだけだよ。」と呟いた。
「キミは自分の前に出てきた岐路から逃げただけだ。考えるのが辛いから、手っ取り早い方法にさ。せめて考え抜いてから逃げて来いよ。重騎士が一時的な痛みを避けて、何が冒険者だ。」
「・・・、私は、」
「冒険者をナメるなよ、お嬢ちゃん。樹海に踏み込んだ時点で、生きるも死ぬも自分の責任だ。死の結果を突きつけられて、『こんなはずじゃなかった。』と言っちゃいけない。まして重騎士の肩には仲間の命もかかるんだ。『こんなはずじゃなかった。』と仲間にだって言わせちゃいけない。その覚悟はあるのかな?」
 プレセペはその場に腰を落とした。俯いて、くすん、と鼻を鳴らす。悔しいことに、青年はこれっぽっちも慌てなかった。音を立てないようにしながら、彼も再びそこに腰をおろす。
「・・・・・・でも、」
 しばらくしてプレセペは声を出した。膝を抱えて顔を伏せながら。
「・・・私、このままはイヤなんです・・・!迷ってばかりで、決められなくて、当然のように叔母に甘えてる自分がイヤなんです・・・!」
「うん。」
 そしてしばらく沈黙が降りた。ざあざあ、と降り注ぐ滝の音だけがプレセペの周囲を支配する。プレセペはぎゅうっと一度強く拳を握りしめ、それからゆっくりと顔をあげた。
 上から降り注ぐ滝の飛沫と光を見上げる。
「・・・同じです。」
「うん?」
「水と同じです。想いもなく意思もなく、当然のように上から下へ流れていくだけ。」
 私はずっとそんな人間なのでしょうか、とプレセペは呟いた。問いかけではなかった。だから青年はそれには答えないことにした。
 滝は留まることなく落ちてくる。そして奈落に落ちていく。もっともその奈落が永遠でないことを、青年は知っていた。地下三階で、滝は水面にたどり着く。そして穏やかに樹海を流れていくのだ。
「・・・水のように生きるのって、悪くなさそうだけどな。こんな綺麗な水なら尚更さ。」
 青年は苦笑して、人差し指をプレセペの目の前に突き立てた。
「じゃあ、クイズだ。流れた水はどこに行き着く?湖に溜まり、滝で流れ、川に注いで、そしてどこに行く?」
 プレセペは瞬きをし、小声で答えた。
「・・・・・・海、ですか?」
「正解。」
 突きつけられた指はそのまま樹海の出口の方向を指す。
「海だ。プレセペちゃん、大海原に出たことは?」
「・・・ない、です。」
「そうか、じゃあ、一度海に出てみるといい。」
 青年はそういって一度空を仰ぎ見て、笑った。何かを思い出して笑いながら、
「海は360度、どこまでも行けるんだそうだ。」
 プレセペは再び瞬きをした。青年はかまわずに続ける。
「どこに行くか、どの船に乗るかは自分で決める。どこかに連れていってほしい、と頼むのも自分だ。たまにどうしようもないお人好しが、どこにでも連れていってやる、とか言うこともあるけれど、連れていってと頼むのも自分だし、その言葉を信じるか決めるのも自分だ。」
 青年は滝の流れ落ちていく先を見つめながら続ける。
「でも自分が決めたら、どこにだって行けるんだ。それこそ360度、どこにでも。」
 道なんかないんだから、と呟くように青年は言う。プレセペも呟いた。
「・・・360度?」
「そう、全方向。ぐるりと一周。」
 青年はそして、苦笑した。
「・・・なんてな!うちのギルマスの受け売りなんだけど!」
 青年は一度陽気に笑ってから、その笑みを微笑に変えた。
「今は決められなくとも、流れて辿り着いたときに選べばいい。キミの役目とキミの意志を合わせて。どこに向かうか、どの船に乗るか、何を守るか、差し出された手を取るか。どれを選んだっていいけど、自分に嘘をついて手っとり早い方法なんか探すなよ。どうにも選べないなら、どうにか出来るまで流されてみるのだって方法だよ。それまではモヤモヤし続けるけどさ。」
 それまで叔母さんの世話になっときなよ、と言いながら青年は立ち上がった。プレセペは彼を見上げる。見上げた先に木漏れ日があった。青年は、もしかしかしたら、と呟いてから、少女に笑いかけた。
「キミが今、迷いながら流れているのは、いつか海に辿り着くためかもよ?」
「・・・・・・。」
 プレセペは返事をしなかった。代わりに、滝を見上げる。水は光りながら落ちてくる。雨が降って、湖にたまって、川に流れて海に注ぎそしてまた天に昇る。流されているようで、実は己の意志で流れているのかもしれない。流れる中で、己の役目を全うしようとしているのかもしれない。
「・・・私、」
 プレセペは滝を見上げて囁いた。
「・・・海を見に行こうと思います。」
 プレセペの一言に、「いい考えだ。」と青年は頷いた。そして青年は弩を担ぎ上げる。
「すっかり話し込んじゃったな。この先に抜け道があるから、海を見に行くなら使うといい。」
 青年の言葉にプレセペは頷く。青年は弩をかつぎ、歩きだした。
「あの、」
「ああ、俺は捜し物があるんだ。三階の野営地に忘れ物してさ、取りに行くの。だから、ここでさよならだ。」
 青年の言葉に、プレセペは頷いて立ち上がり頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「説教くさい話をして悪かったね。」
 そして青年はひらひらと手を振って、樹海の木々の間に消えていく。プレセペはしばらくそれを見送って、そして滝の流れる音を聞きながら一つ決める。
 とりあえず樹海をでて、海を見に行こう。そこで、ゆっくり考えればいい。たゆたう水を見れば、そこに辿り着く日を待てる気がする。その時だって遅くはない。海は360度、どこにだっていけるのなら、迷っている間に置いてきたものに戻ることだって出来るはずだ。
 プレセペは目を閉じて深呼吸をしてから、樹海の出口に向かって歩きだした。


《 終わり 》

---------------あとがきのようなもの-------------------

井藤さんの本「そらゆめ」に書かせてもらった話です。
本ではタイトルついてませんが、今、急遽つけました。(笑)
読み方は、ふ…ふるくちゅ………(言えない)、
「ふるくとぅあと・ねく・めるぎとぅる」です。
たゆたえど沈まず、です。

ファラ子はこのブログで連載してる話には登場しませんが、
アモロの片隅でせっせと腕を磨いていることでしょう。

ちなみに、この話を呼んだ井藤さんから
「眼鏡バリがヒューズ中佐」とお褒めの(?)言葉をいただきました。
うちの眼鏡バリ・ディスケのコンセプトは「死なないヒューズさん」です。


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